いまや老若男女を問わず誰もが気軽に始められるネット生中継だけに、淘汰も熾烈だ。激しい競争を生き残れる人の共通項として、汪は「100万人以上のファンを持つパフォーマーは、例外なくEQ(心の知能指数)が高い」と断言する。
「視聴者がパフォーマーを好きになるかどうかは偶然です。視聴者は生中継を見始めて6秒間しかとどまりません。6秒見て面白くなければ、その生中継から去ってしまいます。6秒間でファンを引きつけられるなら、”お気に入り”に登録してもらえたり、そのまま続けて見てもらえたりする可能性があります。パフォーマーたちはこの6秒ですべきことはすべてわかっています。100万人のファンは一気に入ってくるわけではないので、パフォーマーは視聴者が入ってくるタイミングを測りながらうまく対応していかなくてはなりません。歌うべきときに歌い、踊るべきときに踊れば、視聴者をつなぎ止められます」
視聴者数によって収入のスタイルが変わる
主にどういう視聴者層をターゲットにしているのか。つまりプレゼントにカネを払ってくれる気前のいい視聴者たちを引きつけなければ、パフォーマーの稼ぎにはつながらないだろう。そう思って疑問をぶつけると、汪からは意外な返事が返ってきた。
「ビジネスモデルから言うと、生中継を見た視聴者がカネを払うかどうかは、あまり気にしていません。楽しんでくれればいいです。楽しければ、たくさんの人が見てくれますから」
メガネの奥の汪の瞳はつねにほほ笑んでいる。その柔和な話しぶりも手伝って、私は「ずいぶん緩い戦略だな」と思ったが、そこには私が考えてもみなかった、そろばん勘定があった。緩いのは私のほうだった。
「見ている人が1万人、10万人、100万人かによってビジネスモデルは違います。1万人なら確かにプレゼントを払ってくれるファンに注目しますが、10万人ならスポンサーから収入を得られるので、ファンが払うおカネは重要ではなくなります。100万人ならスポンサーが唯一の収入の手段になります。なぜなら、このパフォーマーがすでに金持ちであることはファンにもわかるので、内容が面白いからといってプレゼントを贈ったりはしなくなります」
要点を得ない私に汪は、笑って「簡単に説明しますよ」と続けた。
「たとえば100人が私を好きだとします。私が一言、『この鉛筆を買ってね』と言ったら、この100人が皆、鉛筆を買ってくれます。企業から見れば私の価値はこのファンたちです。私の一言でみんな鉛筆を買うわけですから。もし10万人のファンを持っているなら、企業は大喜びでしょう」
なるほど。汪の会社は契約しているネット生中継のパフォーマーを企業のイベントなどにも参加させている。しかし、それは商品発表会などで壇上に立って、商品の宣伝文句と笑顔を振りまくという目的では決してない。パフォーマーは、たとえば一観客としてその会場から自分のネット生中継を「勝手に」行うのだ。好きなパフォーマーがネット生中継を行えば、ファンたちはその背景でさえ注目し話題にする。
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