新人を育てたいなら「文章」を書かせてみよう 昔ながらの教育法がいちばんの近道だった

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このお客様に、一通一通お礼やお詫びの手紙を新人さんが書いていたのです。もちろん、出す前に上司がいったんチェックしていますが、ほとんどそのままの文章で出しているそうです。上司は、次へのアドバイスをくれますが、あまり問題がなければそのまま出してしまうそうです。

これには意味がありました。一つひとつが本番であり、本気で取り組む、ということです。このお客様への手紙を一通一通大事に書く。このプロセスを通じて、お客様のことを一生懸命考え、1枚のはがきを無駄にしないで本気で書くという意識を養成していったのです。

研修の狙いは、「会社のため」の文章を書くのではなく、「自分のお給料をもらっているお客様のため」に書くこと。このお客様志向の仕事のプロセスに、文章力養成の機会を組み込んでしまったのです。

この仕組みを取り入れたことで、いくつもの成果がありました。

「よ! ○○さん、また来たよ」「△△くん、お! 頑張っているね!」

新人が、お客様に覚えてもらえるようになり、コミュニケーションが増加したのです。

こうした成果から、会員の再来店率が向上し、客単価が向上する、という成果に結び付きました。もちろん、新人の離職率も下がりました。お客様に、自分たちが覚えてもらっている、という肯定感、充実感が、ポイントだったようです。

文章力を新人教育に取り入れるメリット

この方法に取り組んでいる企業の担当者に尋ねると、一様にこう答えます。「昔からある文章力を養成することが、遠回りのようでいちばんの近道だった」。高度なライティングの技術やロジカルシンキングの教育も大事ですが、こういった基礎的な力こそが大事だというのです。

私の視点からまとめてみると、文章力を新人教育に取り入れるメリットは3つあります。

1つは、文章力は、すべてのビジネスにおいて欠かすことができないベーシックスキルだからです。営業であろうと、開発職であっても、事務職であっても、仕事を理解する、何かを創り出す、何かを伝える。文章を読み込めなければ、意図を理解できませんし、伝えられないからです。つまり、ベーススキルとして文章力は大切なのです。

2つ目に、文章力の養成は、新人がとっつきやすい教育だからです。高度な知識の習得や創造性を伸ばす教育は、人によっては苦手意識があるかもしれません。「文を書く、読む」という低いハードルから、少しずつ思考力や想像力などを盛り込んだ課題にしてハードルを上げていくことも可能なのです。少しずつ「できた」「私も挑戦してみよう」という成長意欲を育むこともできるのです。

3つ目は、考える機会をつくれるからです。スマホ、SNS時代に、ゆっくりとモノゴトを考え、立ち止まって自分のことを考えることは少ないはず。それが、文章を読み・書くことは、自分と対話する(内省する)機会を得ることができます。なぜ?どうして?どうやって?自分は?と、考える機会を設けることができるのです。

一見、昔ながらの方法ですが、ひと工夫している。押し付け教育ではなく、新人の彼らが自主的に学び、仕事につなげる環境をつくる。ポイントは、新人の側に問題点を押し付けないことです。

原 佳弘 人材育成プロデューサー/組織発酵学

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はら よしひろ / Hara Yoshihiro

Brew株式会社 代表取締役。組織発酵学®プロデューサー。1973年生まれ。横浜市立大学卒業。(旧)建設省所管の市場調査機関にて経営企画を担当後、人材育成やマーケティングのコンサルティングの会社へ。大手企業の新商品開発から精鋭営業チームの育成プロジェクトなどに携わる。2014年、Brew(株)設立。専門分野を持った350人以上の講師コンサルタントとパートナーを組み、組織開発やイノベーション人材育成サービスを提供している。著書に「研修・セミナー講師が企業・研修会社から選ばれる力(同文館出版)」がある。

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