脳の老化予防には、歩くより踊るほうがいい ステップを覚えるプロセスが効果的

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その後、被験者をランダムに複数のグループに分類。1つのグループには、専門家の指導に基づく1時間の速歩きのウォーキングを週3回してもらった。別のグループには、専門家が作成した軽度のストレッチとバランストレーニングを週3回実施してもらった。

そして最後のグループには、ダンスを習ってもらった。このグループの男女は1時間のカントリーダンスのレッスンを週3回受け、徐々に複雑なステップも練習した。一緒に踊る人たちと1列になったり、四角を作ったりしながら、パートナーを次々と変えたりする。

新しいステップを学ぶことの効果

6カ月後、被験者に再びラボでテストを実施し、脳のスキャンも行った。

すると、すべての人々の脳に白質の「変性」と呼ばれる兆候が見られた。白質が縮小し、神経細胞間の結合の数が減少するなど、変化はごくわずかなものだ。

しかし、論文の筆頭執筆者でコロラド州立大学教授(人間発達・神経科学)のアニエシュカ・ブルジンスカ(イリノイ大学の元研究者)は、たった6カ月の間にもかかわらず、人々の脳の全体に驚くほどの影響が広がったと指摘する。

変性は特に、被験者の中でも高齢な層と、研究に参加する以前の運動量が最も少ない人々の間で顕著に見られた。

だが、ダンスを習ったグループは6カ月前に比べて脳の白質の一部の健康が向上していた。このグループは、情報の処理速度や記憶に関係する脳弓という部分の白質の密度が高くなっていたのだ。

ブルジンスカによると、6カ月にわたって被験者に新しいステップを学び、習得することを求めるという認知的要求が、脳弓の組織に影響を与え、そこにある白質の大きさや量が増えたと考えられる。

興味深いのは、被験者の白質の変化はどれも彼らの認知能力に明確に反映されていなかったことだ。ほぼすべての人は白質の衰えが見られたのにもかかわらず、処理速度を含む思考能力の測定値が向上していた。

これは、脳が構造的に変化するときと、思考力や記憶力に問題が出始めるときとの間に時差がある可能性を示しているとブルジンスカは指摘する。

さらに朗報は、すべてのグループが実行した運動プログラムを含め、「体を動かすことと社会的な行動はどんなものでも」老化する脳の知能を活性化させる可能性があることが、この研究結果からわかることだとブルジンスカは言う。

研究から言えることは、運動の重要性だ。「被験者の中で調査前からすでに運動をしていた人は(白質の健康の)低下が最も少なかった」とブルジンスカは言う。そして、ダンスをしたグループは白質の量が増えた。

この研究は期間が比較的短いため、ブルジンスカは今後、数年にわたってさまざまなタイプの運動を行った人々の脳の研究を行いたいとしている。

しかしブルジンスカが指摘するように、現時点では今回の研究結果は、体を動かすことと、そしておそらくカントリーダンスやスクエアダンスなどのフォークダンスを習うことのひとつの論拠を示している。

(執筆:Phys Ed記者、翻訳:中丸碧)

(c)2017 The New York Times News Services 

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