それ以降、実際に仕事が始まってからも、私は彼女にタメ口をきいたし、彼女の組織運営や戦略についての相談もたくさん受けました。もちろん、上司なので、承認を得なければならないことも出てくるのですが、その時は「恥ずかしい聞き方」はしたくなくて、さくっと承認してもらえるようにちゃんと整えてから持っていくようにしました。私のプライドでしょうか。「どうしたらいいと思う?」といった相談の仕方をするなんて、情けないじゃないですか。
こうやって私が実力以上に彼女の役に立ちたいと思えたのは、彼女の作戦の結果なのかもしれません。実際、「やるなぁ」「うまいなぁ」と思ったことも何度もあります。
たとえば、私の立場では本来触れられないような情報もできるだけ提供してくれていたし、若手の課長陣を育成するようなミッションも私に課してくれて、プライドや立場みたいなものを担保してくれたうえで、彼女と同じ目線で仕事できるように配慮してくれていたと思います。
私の課題に関する、彼女には言いにくいだろうことを、もっと上の役職の人をセットして、その人の言葉として伝えてくれたこともありました。これも私が受け止めやすいように工夫してくれたのだと思います。こういったことを「できるなぁ」と感じていたのは不遜かもしれないのですが、でも仮に作戦だったとしても、私にとって仕事をしやすく、力を発揮しやすく環境を整えてくれた彼女に感服せざるをえませんでした。そして、これはやっぱり彼女の「人格」がすばらしかったのだと思えてならないのです。私は彼女の人格にほれ直した結果、部下としてのポジションに不満をまったく感じずに済んだのです。
すぐに完璧な管理職になれるわけではない
あなたは新任管理職です。管理職になったからといって、その日を境にぱっと完璧な管理職になれるわけもありません。20歳になったら、昨日とまったく違う「オトナ」になっていたかというと、そうではなかったのと同じです。でも成人になったら、その責任は負わなくてはならない。少しずつ大人になっていくしかないのに、です。
同じように、あなたも「ちゃんと上司にならなくちゃ」と気負ってしまっているかもしれないし、実際に上司としての責任は負わなければならないでしょう。でも、急にあなたの思う上司と部下の関係を強いてしまったら、彼女とのこれまでの関係性は壊れてしまうのでは、と思います。彼女からの「これからはタメ口はダメよね」という言葉は、「私たち、どういう関係でいくつもり?」という彼女の問いかけなのかもしれません。あなたはなんと答えたのか、ご相談にはありませんでしたが、戸惑っている態度を見せたのだとしたら、彼女も「これからどうなるのだろう」ともっと不安になったかもしれないと思いますよ。
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