稲穂:商標権も商品やサービスを指定して取るものですから、たとえ他人の登録商標と同じ商標を使っている場合でも、指定されている商品やサービスと類似しないものについて使っているかぎりにおいては、少なくとも商標権の侵害にはなりません。もっとも、類似するかしないかについては判断の難しいものもあります。
木本:商標の話が出てきたのでお聞きします。生きている人の名前は商標登録ができず、亡くなった人の名前ならば商標登録できるとありましたが。
「福澤諭吉」が慶應義塾の登録商標になったワケ
稲穂:実は、そう単純ではありません。生きている人の名前でも本人から承諾を得れば大丈夫ですし、亡くなった人の名前も歴史上の人物である場合は、無関係な人が出願すると公序良俗に反するという理由から、最近の特許庁の運用では拒絶されるようになっています。
では故人と関係があれば取れるのかというと、それもまたケース・バイ・ケースです。慶應義塾が商標「福澤諭吉」を出願しましたが、いったんは遺族の承諾が得られていないとして拒絶されています。その後、遺族の承諾を得て、福澤諭吉の名声・名誉を保全する立場だと主張したら登録されたのです。
木本:高知県が「坂本龍馬」の商標を出願したら拒絶されたのはどうしてでしょう。
稲穂:「坂本龍馬」は町おこしなどで全国いろいろな場所で商標として使われているといった理由から、特許庁は高知県が独占するのはダメと判断しました。確かに、京都の伏見や品川の立会川など、龍馬ゆかりの土地は全国のあちこちにあって、関連グッズも売られていますからね。
木本:福澤諭吉は坂本龍馬ほど人気がなかったということでしょうか。
稲穂:さあ、どうでしょうか? 福澤諭吉はお札にもなっているわけですからね。でも、特許庁は「福澤諭吉」を慶應義塾に独占させても他から文句は出ないと考えたのかもしれません。
木本:高知県が「うちの坂本龍馬だ」と独占するのがダメなのに、慶應義塾が「うちの福澤諭吉だ」と独占するのは「どうぞどうぞ」なんですね。どちらも偉人なのに、なんか変な感じですね。
稲穂:ただ、誤解してほしくないのは、高知県が「坂本龍馬」の商標を使って商売ができないかというと、そういうことは全然ありません。他の人が同一・類似の商標を使用することなどをやめさせることができないだけです。
木本:逆にいうと、いろいろな場面で使える。独占できないからといって、ネガティブなとらえ方をする必要もないんですね。次回は、僕が生きているお笑いの世界の「ものまね」について伺います。
(構成:高杉公秀)
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