木本:アナログな考え方なんですね、かなり広い範囲でイメージしながら決めていく印象があります。
稲穂:そうですね。裁判所の判断も、地裁、高裁と進むうちに変わることもあります。
三越と高島屋、同じ包装紙でも違いがある?
木本:著作権の話に戻りますが、先生の本で、三越と高島屋の包装紙で権利の考え方に違いがあるというくだりは面白かったです。三越の包装紙に著作権があって、高島屋の包装紙には著作権がないと考えることができるのはなぜでしょう。
稲穂:包装紙は、基本的に工場で大量生産される実用品です。たとえばノートもそうですが、これらの紙製品は意匠登録することで「意匠権」によって保護される建てつけとなっています。量産できる実用品の場合、著作権が発生するのは、高度の美術性があるものや美術工芸品など一部の例外に限られると考えられています。
木本:意匠権は、量産できるものを対象としているのですね。
稲穂:ですから、包装紙も原則は意匠権で守られるべきものです。とは言いながらも、三越の包装紙は洋画家の猪熊弦一郎さんの抽象画を転用したものです。その抽象画は美術の著作物であると考えられます。一方、高島屋のほうは初めから包装紙としてデザインされているため著作権がないと考えられるというわけです。
木本:最初に芸術がかかわっていたかどうかという差があるんですね。
稲穂:オリジナルの著作物があるかどうかは重要です。電子玩具のファービー人形が一時期流行し、海賊品が出回りました。電子玩具は量産品ですから、本来は意匠権で保護されるべきものですが、その当時ファービー人形の意匠権はまだ取れていなかったので、検察側は海賊品の業者を著作権侵害で起訴しました。ところが裁判所は美的特性を備えていないという理由からファービー人形のデザインは著作物ではないと判断し、被告は無罪となりました。
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