「寝不足に悩む人」が知らない眠り方の新常識 いつもどおりのリズムを崩さないのが肝要だ

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もうひとつの手法、「脳を徐々に睡眠モードに持っていく」というのは、できるだけベッドに入るまで同じ行動をとって、脳に「これをすると入眠」という条件付けをしてやる、という手法です。

実際、動物実験でマウスを新しいケージに引っ越しさせると、直後は眠りにくくなることがわかっています。「旅先で枕が変わると眠れない」という人はまさにこのマウスと同じ状態で、どんなに好奇心旺盛な人でも、就寝前の脳はチャレンジを好まないのです。

いつもどおりのベッドで、いつもどおりの時間に、いつもどおりのパジャマで、いつもどおりの照明と室温で眠る。いかに「いつもどおり」を保つかが、脳を睡眠モードに持っていくうえでは重要だといえます。

脳にチャレンジを強いないという意味では、「羊を数える」という昔からある「入眠儀式」には疑問が残ります。

というのも、この方法はもともと英語にルーツがあり、「Sheep,sheep,sheep・・・」と息を潜めるような響きが眠りを誘うといわれています。「ヒツジガイッピキ、ヒツジガニヒキ……」はさほど発音しやすいとは思えず、逆に脳を活性化させてしまうおそれがあるでしょう。

脳が眠りを拒否する「睡眠禁止ゾーン」とは?

「いつもどおりの時間に寝るのがいい」と言うと、よく「夜更かしはいけないということですね」と受け取られるのですが、実はそれだけではありません。

「前倒し」でもいい睡眠が得られないことがわかっているのです。

人は起きていると眠気のもとである「睡眠圧」がどんどん溜まり、入眠すると最初のノンレム睡眠で溜まった「睡眠圧」が放出されます。

なので、「睡眠圧が最も高まる」入眠直前がいちばん眠くなると考えられていたのですが、実験で「いつも寝る時間の2時間前くらいから入眠直前までは寝にくい」ことがわかったのです。

これは、日中眠気に対抗して覚醒を維持しようとするシステムが眠る直前に最も働くからだと考えられていますが、なぜ入眠直前にいちばん高まるのかはわかっていません。ただし、「就寝直前はいちばん眠くない」ことは何人もの研究者に確認されていて、この「最も眠りにくい時間」は「睡眠禁止ゾーン」と呼ばれています。

「後ろにずらすのは簡単、前にずらすのは困難」これが睡眠の性格といえるでしょう。

なので、「明日早い」というときは、無理せずいつもどおりの時間で眠るか、もしくはどうしても1時間早めに寝たいなら、いつもより1時間早くお風呂に入って、ストレッチなど軽い運動を組み合わせて体温を作為的に上げることをおすすめします。

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