なぜ日本の「伝統工芸」は世界で売れないのか ホントはすごい「工芸大国ニッポン」の実力

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工芸の衰退を食い止める2つの柱は、「産業革命」と「産業観光」にあります。産業革命とは、資本を集約してサプライチェーンの垂直統合を図ることです。工芸メーカーのほとんどは家族経営の小さな企業で、それが1つ、また1つと欠けていくことで、産地全体が存続の危機に立たされる。これを防ぐためには、産地の一番星が中心となって上流・下流の工程を担う企業をメーカー内に組み込むのが確実な方法です。

しかし、そんな資本力が工芸メーカーにあるとは限りません。そこで工芸の製造現場そのものを観光資源とする産業観光をもってして資本を呼び込もうというのが、もう1本の柱です。私たちの店でもスタッフが商品の良さを伝える努力をしていますが、百聞は一見にしかずで、今まさに工芸品が生まれようとしている現場を見るのには及びません。

これに地産地消のおいしい食事と良い宿があれば、観光客は集まります。高岡で能作が、奈良でこれから私たちが始めるように、全国の産地で産業観光ができるようになれば、現代人にとって工芸はもっとずっと身近なものになるに違いありません。

100年後の工芸大国へ

日本には現在、300ほどの工芸産地が残っています。これは世界屈指の数です。日本の工芸が抱える職人の高齢化、低価格競争による産地の疲弊、後継者難といった問題は、世界共通のものです。

そうした中で、100年後の日本に300の産地が残っていれば、間違いなく世界に冠たる工芸大国になれるでしょう。そうなれば、フランスにバカラ、ドイツにマイセンがあるように、世界中の人があこがれて、そばに置きたいと願う日本発の工芸のトップブランドが誕生する可能性は大いにあります。

それは同時に地域創生にも資するものです。国や自治体に頼るのではなく、各産地の一番星が起点になって自分たちの力でしっかりと歩めば、地域経済が活性化して雇用が生まれる。産業観光に訪れる人の「外の目」は、地元の人が工芸品の価値を再認識するきっかけとなり、コミュニティにも活気が戻る。そのきっかけづくりをするのが、日本工芸産地協会に集った私たちメーカーの役割です。

工芸なんて一部のマニアや女性の好むものだろうと考えている方に理解していただきたいのは、世界でプレゼンスを得ていくためにも、地域創生のためにも、その担い手である中小企業を活性化するためにも、工芸はわりと筋の良いストーリーであるということです。「工芸大国」の構想を軌道に乗せるため、創業301年目の今日も全力で走り続けています。

中川 政七 中川政七商店代表取締役社長

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なかがわ まさしち / Masashichi Nakagawa

1974年奈良県生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通入社。2002年に中川政七商店に入社し、08年に代表取締役社長に就任。製造から小売まで、業界初のSPAモデルを構築。「遊中川」「中川政七商店」「日本市」など、工芸品をベースにした雑貨の自社ブランドを確立し、全国に約50の直営店を展開している。09年より業界特化型の経営コンサルティング事業を開始し、日本各地の企業・ブランドの経営再建に尽力している。16年11月、同社創業300周年を機に13代中川政七を襲名。17年には全国の工芸産地の存続を目的に「産地の一番星」が集う日本工芸産地協会を発足させる。15年に「ポーター賞」、16年に「日本イノベーター大賞」優秀賞を受賞。「カンブリア宮殿」や「SWITCHインタビュー達人達」などテレビ出演のほか、セミナー・講演も多数。著書に『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。』『経営とデザインの幸せな関係』(ともに日経BP社)がある。

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