なぜ日本の「伝統工芸」は世界で売れないのか

ホントはすごい「工芸大国ニッポン」の実力

ブランド力は、作り手の矜持と技術を守る盾にもなります。エルメスの職人も特級ワインの作り手も、きっと自分たちの仕事に誇りと愛情を持っているはずです。そうでなければ、あんなに人を惹きつけるものが作れるはずがありません。

世界の人がその価値を認めるから、作り手にも十分な報酬が支払われる。その結果、職人が誇りを持って仕事に打ち込める環境が整い、さらに良いものが作られる。地域を代表するブランドとそこで働く職人は地元の人の誇りとなり、それにあこがれる若者や子どもたちが出てくる。こうした好循環がブランドとしての強さを確固たるものにしています。

では、日本製のバッグの品質や職人の技術が劣っているのかといえば、そんなことはありません。日本製の上質なバッグは、品質もデザイン面でも、世界のトップブランドにひけをとりません。でも、数百万円でそれを買おうという人はいない。技術や品質で勝ったとしても、ビジネスで負けているのが現状です。

工芸品の職人を希望する若者は少なくありません。しかし、その報酬の額を聞くと二の足を踏んでしまう。修業の名目の下に、将来設計が描けないほどの額しかもらえないケースが珍しくないから当然です。

雇用する側も、払えるものなら十分な報酬を支払いたいはずですが、安価な大量生産品に押されて、それもままならない。だから、あとを継がせられない、と言うのです。世界でここにしかないという独特の製造工程や技術力が、作り手の引退とともに消滅していっています。

フランスやイタリアに負けないブランド力を築いて、良心のある作り手が誇りを持って仕事に取り組める環境が整えば、エルメスなどと比肩する工芸品ブランドが日本から生まれても何の不思議もありません。成熟期を迎えた日本の稼ぐ道は、政府が力を入れる観光立国ばかりではないはずです。工芸が日本の産業の1つの顔になる可能性は十分にあると考えています。

経営者である私が他社をコンサルティングする理由

中川政七商店の看板商品でもある「花ふきん」。奈良名産の蚊帳生地を使い、さまざまな用途を提案したふきんは、グッドデザイン賞を受賞(撮影:今井 康一)

中川政七商店は、今から300年前の1716年に奈良で創業して以来、伝統工芸の奈良晒(ならざらし)の製法を守り、麻織物を商ってきました。現在は「中川政七商店」「遊中川」「日本市」などのブランドで全国に約50の直営ショップを展開しており、自社で企画、製造したオリジナルの商品のほかに、日本全国の工芸メーカーが作る品々も並びます。

その中には波佐見焼(はさみやき)のマルヒロ(長崎県波佐見町)、包丁のタダフサ(新潟県三条市)、業務用鞄から始まったバッグワークス(兵庫県豊岡市)など、私がコンサルティングを行って、経営を立て直したメーカーが含まれます。大きなくくりで見れば同じ工芸メーカーの中川政七商店が、なぜ同業他社のコンサルティングを行うのか。それは、このままでは私たちの店で売るものがなくなってしまう、という危機感からでした。

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