もう一つのアーサー・アンダーセン? 不正発覚で規制強化へ、地に落ちた格付け会社

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もう一つのアーサー・アンダーセン? 不正発覚で規制強化へ、地に落ちた格付け会社

格付け会社に対する規制論議が高まっている。IOSCO(証券監督者国際機構)は5月に格付け会社の行動規範の改訂案を、SEC(米証券取引委員会)は6月に監督・規制案を発表している。

そんな中、5月21日、英フィナンシャル・タイムズ紙が、格付け会社ムーディーズが証券化商品の一種であるCPDO(信用リスクのインデックスにレバレッジをかけて投資する証券化商品)の格付けで不正を行っていたとすっぱ抜いた。

7月1日、ムーディーズは社内調査の結果を発表した。FTの指摘した「モデルの間違いを隠すための格付け手法の変更はなかった」が、「モニタリング委員会のメンバーがモデルの間違いの発見に伴う見直しに際し、格付けプロセスには不適切な要素を考慮した」という微妙な言い回しの内容だった。CPDOのうち10億ドル弱が本来、Aaであるべきなのに、Aaaとなったという。

同社は関係部署の職員の解雇を含む処分を行うことやストラクチャード・ファイナンス(仕組み金融)部門の責任者の退任を発表。5月の社長入れ替えに続き、実力会長のレイモンド・マクダニエルCEOはトカゲの尻尾切りに躍起なように見える。

6月30日、ムーディーズは日本国債の格上げを行っている。財政再建意欲が後退し、かつ金利上昇で財政発散のリスクが高まっているのになぜ? という疑問が出てしかるべきだが、市場は無視した。信認がとうに地に落ちているからだろうか。

サブプライム問題に端を発する金融市場の混乱が始まってから、格付け会社はエンロン事件以来、再び深刻な非難にさらされている。

7月8日には、米SEC(証券取引委員会)が3大格付け会社の調査の結果、「深刻な欠点を発見した。情報開示や格付けプロセスを管理する政策や手続きが欠如し、利益相反への注意が不十分」(コックス委員長)としている。

これまで格付け会社は「格付けは一つの意見にすぎない」と主張し、損害賠償や行政処分を食らったことはなかったが、今回はそうもいかないだろう。

サブプライム関連では、司法省と連邦捜査局によって、投資銀行やモーゲージ会社などの400人余りが詐欺容疑で起訴された。3大格付け会社は、ニューヨーク州の司法長官とRMBS(住宅ローン担保証券)では合意し、訴追を免れたが、再証券化商品など他の分野で合意が成立するかはわからない。CPDOは損失回復が難しく、投資家からの民事訴訟もありうる。最悪、エンロン事件で解散に追い込まれた監査法人アーサー・アンダーセンの二の舞いになるリスクさえささやかれている。

枚挙に暇がない利益相反事例

そもそも、ムーディーズ、スタンダード&プアーズ、フィッチの3大格付け会社や日本のR&I、JCRは監査法人同様に発行体から手数料をもらっているので、根本的に利益相反が生じやすい構造を持つ。投資家から手数料をもらって公開情報から分析を行う三國事務所があるが、例外的な存在だ。実は、発行体から手数料をもらう格付け会社は、日本でもたびたび、問題となってきた。

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