もう一つのアーサー・アンダーセン? 不正発覚で規制強化へ、地に落ちた格付け会社

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2001年の個人向けマイカル社債のデフォルト事件。銀行も生保ももはや追加融資しないマイカルが、Aの格付けで個人相手に500億円の社債を発行し、デフォルトした。が、プロが取引する債券の流通市場では、すでにA格どころではないスプレッドがついていたのだ。

格付け会社が発行体から依頼もされないのに、格付けする「勝手格付け」問題。低い格付けのついた発行体の多くが、慌てて手数料を払い、守秘義務契約を結んで情報提供を行うと、格付けが上がる。従前の低い格付けについての格付け会社の説明はこうだ。「限られた公開情報のみに基づくため、慎重な格付けになる」。

最近流行の優先株、優先出資証券、劣後証券などのハイブリッド証券もおかしい。もともと、これらは自己資本規制のある金融機関において、公募増資が難しい場合に、次善の策として調達するものだ。だが、格付け会社は、事業会社にも発行を勧めて回った。希薄化を抑えながら資本増強ができ、格付けが上がります、というわけだ。しかも、調達額のうちどの程度を資本として評価するかは、格付け会社の基準次第となる。

現在、欧米で問題になっている証券化などストラクチャード・ファイナンスの根本的な問題点は、原債権のオリジネーターである発行体とアレンジャーである証券会社とともに、格付け会社が仕組みづくりに参加する点にある。つまり、アレンジャー側の一員である。

証券化の分野は、誰でもが、有価証券報告書や決算短信で分析を試みることのできる上場企業の格付けとは根本的に異なる。「意見」は、格付けしか存在しないのだ。

しかも、2次、3次と加工を繰り返す再証券化では原債権の性格も失われる。モデルの問題点を専門家が指摘しているが、素人でもわかる問題点は、投資家が中身の債権のデータを検証できず、流通性に乏しいため市場の評価もないことだ。格付けを信じて、持ち続けるしかない。

バーゼル�がお墨付き

人のカネを預かる金融機関や機関投資家は自らが分析のプロであるべきで、コストセーブの観点から格付けを使うにしても、妄信すべきでないことは言うまでもない。サブプライム禍は金融機関の堕落の結果ともいえる。だが、格付けへの依存度を高める公的なインフラをつくってしまったことも、見逃せない。

「一つの意見」が大きな権威を持つのは、国から指定された格付け会社の格付けなしには、資本市場で証券発行は出来ないからだ。だから、大手3社で9割以上のシェアを占める寡占であり、えらく儲かるのだ。

さらに、BIS(国際決済銀行)の定める銀行自己資本規制の04年版、いわゆるバーゼル�では、信用リスクの計算に、指定格付け会社の格付けを使うことが認められ、多くの金融機関が採用している。これがさらに権威を高めてしまった。

これほどまでの“お墨付き”を与え、事実上、格付けを使わないという選択肢を排除してしまった以上、もはや公的な規制の網をかぶせることは不可欠だろう。

監査法人は、同一会社に対しコンサルティングと会計監査の両方を行うことを禁じられている。同様に、格付け会社も、財務コンサルティングやストラクチャード・ファイナンスへの助言と、格付け付与の業務とを分離させるべきだろう。

格付け会社の格付けプロセスや体制を監査し、モデルを検証し、それを開示させる。営業と格付けの利益相反がないか調べ、必要なら処分をすること。すなわち、金融機関並みの監督・検査体制が必要だ。

(大崎明子 =週刊東洋経済)

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