金融街で働く人は「嫌なヤツ」ばかりなのか 200人以上取材した記者が見た実態

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しかし、2年間色々な人と話してわかったのは、彼らは非常に最悪なシステムの中に勤めている普通の人たちなんだということだ。働いている人たちについては「悪い人はいない」と楽観的な考えを持つようになったが、今の金融業界の在り方については一段と悲観するようになった。

――金融街の取材をつづった「バンキング・ブログ」に対して、ものすごい数のコメントがあったそうですが、なぜそんなに多くの「一般人」が金融業界に興味を持ったのでしょうか。

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金融業界は原発みたいなものだ。長い間、ぼくらは「原発は安全だ」と言われ続けてきた。しかし、福島第一原発の事故で目が覚めた。リーマンショックも同じだった。多くの人が、金融業界の人たちだけに金融業界を任せていては危険だと気が付いたのだろう。

しかし、金融業界を勉強しようにも簡単に理解できる本はない。あったとしても、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』みたいな勘違いを引き起こすようなものだ。だから、金融業界がいったいどんな業界なのか、どんな課題を抱えているかを、働いている人の視点でわかるようなことをやりたかった。

金融業界だけの問題ではない

――印象に残っている読者からの反応は。

特に面白いと思ったのは、本当に多くの人が、ゴールドマン・サックスやJPモルガンで起こっていることは、石油や製薬、通信会社でも起こっていると指摘したことだ。今のような、「弱肉強食、目標志向、四半期ごとの業績がすべて」的な社会では、みんな似たような会社になってしまうわけだ。

その後、大学で講演をすることになったのだが、大学でも似たような話を聞いた。少なくとも欧米では、大学も、医療業界も、刑務所でさえ、金融機関のようになっていると。こうした業界に属する企業の多くはM&Aで大きくなっているし、目標志向だし、大事なのは四半期ごとの業績目標をクリアすることであって、社会に対する責任はないという考えが強い。

――それが資本主義の行きつくところなのでしょうか。

私が生まれ育った欧州北部の資本主義は、いわゆるアングロサクソン的な資本主義とは異なる。日本の資本主義もまた異なるだろう。資本主義にもいろんな側面があると思うが、たとえばたった5分でクビになったり、短期主義に基づいて計画が作られたりするアングロサクソン的な資本主義の中で生きているとしたら、自分が勤める金融機関の長期的な業績や成長など気にする必要があるだろうか? 少なくとも、金融機関は勤めている従業員の将来なんて気にしていない。

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