金融街で働く人は「嫌なヤツ」ばかりなのか 200人以上取材した記者が見た実態
金融ジャーナリストは、自分が担当している業界を「この業界はデカすぎるのか?」なんて問わないだろう。何だったら「いや、もっと成長してデカくなってほしい」と思っているはずだ。金融メディアがあって、ジャーナリストの仕事があるのは、金融業界が成長しているからだ。
――皆さん色々よく話してくれましたね。
実は僕自身もインタビューする前に、なぜ取材に応じてくれるのかを尋ねた。彼らの仕事を危険にさらす可能性があるからね。経済理論によると、僕らは誰もが自分のために合理的な選択を行う。これを普通の言葉にすると、誰もがワガママっていうことだ。誰もがワガママだという前提にたった場合、なぜ彼らは見知らぬオランダ人に、しかも左がかったガーディアンの記者のために、そこまでの危険を冒す必要があるのか、僕自身も不思議だった。
金融機関に勤めていると、社内外で年中非難にさらされる。中にはそのせいで、自分がやっていることすらわからなくなっている人もいる。話していて彼らがかなりのフラストレーションを抱えていると感じた。業界に対する不満がたまっている人は、「(業界の実態は)これよりずっとヒドい」と警告してくれた。一方で、「自分はボーナスをもらっていない」「自分が勤めていたところは潰れていない」「自分は悪いことには手を染めていない」と身の潔白を訴える人も多かった。自分のやっていることや、業界を守りたいと考えている人もいた。
つまり、それぞれが異なるモチベーションや目的を持って、インタビューにやってきたということだ。いずれにしても、仕事を失うかもしれないというリスクを冒してまで、話してくれたこと自体、とても励みになった。
金融街はサイコパスの集まりだと思っていた
――結論として、金融業界に勤める人たちは、悪い人たちではなく、「普通」だと。
彼らは僕らより負けず嫌いで、野心的かもしれない。中には本当に「嫌なヤツ」もいるだろうが、そういう人は当然、取材なんか受けないだろう。そう考えると、今回取材に協力してくれた人は「偏っている」可能性はある。もっとも、彼らに「君の同僚も、君と同じようにナイスで、まともなのか」と聞くと、みんな「もちろん」と答えた。金融企業にはキラキラ、ギラギラしているイメージがあるが、それとはまったく違う。
――2年間取材して、金融業界に対するイメージは変わりましたか。
間違いなく。取材を始める前は、レオナルド・ディカプリオが主演した『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のように、金融街はコカインを常用し、ストリップクラブに通うサイコパスの集まりで、実体のない株式を売っているような人たちが大勢いると思っていた。
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