甲子園連覇狙う作新学院「考える野球」の真髄 なぜ、「送りバント」があれほど少ないのか

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小針が11年間の監督人生の中で学んだセオリーは、「アマチュア野球の場合、メンタル面の要素がすごく大きい。メンタル次第で、結果が大きく変わる」ということだ。

作新学院の野球スタイルでよく知られるのが、送りバントが少ない「超攻撃型野球」だということ。高確率で次の塁にランナーを進められる戦術である送りバントは、高校野球で多用される。だが、送りバントは試みる選手に心理的なプレッシャーを与えてしまうために、一般に言われるほど有効ではないというのが、小針の考えだ。

「成功して当たり前、決まって当然だと思われる送りバントは、高校生のメンタルからするとどうなのか、と考えたんです。たとえば1点を追いかけている状況で送りバントのサインを出して、ミスが起こる。もちろん、バントもきっちり、こなせる選手になってほしいけれど、『できて当然』という考えはプレッシャーを誘発し、普段の動きをできなくなる原因にもなります」

もちろん、バントを選択することもあるが、ポリシーがある。「私はバントのサインを出す際も、セーフティバント、セーフティスクイズと、より攻撃的で難易度が高い手段を選びます。指示した作戦の難度が高くなるほど、選手ではなく、サインを出した私の責任が重くなりますから」。

しかし、選手の個性はさまざまだ。プレッシャーへの耐性や勝負強さは当然に異なる。一人ひとりに合わせて、過度のプレッシャーを負わせないようにするマネジメントを実際に行うことは簡単ではない。そのために、普段から選手と密にコミュニケーションをとり、一人ひとりのメンタル面の特徴をしっかり把握することが重要になる。

野球を超えて役立つ「判断力」を育てる

遠征でバス移動する際は長渕剛の曲を流し、チームで熱唱、夏の大会前にはベンチ入りがかなわなかったメンバーも含めて、3年生全員と話をする。そんな小針のスタンスがチームのまとまりにつながっている。

「野球を深く考える事が大事」と話す小針崇宏。作新学院は今年、どんな戦いを見せるのか(筆者撮影)

もう1つ、大事にしていることがある。高校野球を通じて、しっかりとした判断ができる人間に育てることだ。もちろん、判断力の向上は、野球のプレーの質を引き上げることにもつながる。

「選手が無駄に迷ってしまうことが起きないように心掛けています。たとえば、『ナイスバッティング!』と声をかけることで、選手は『そうか、今の判断で良かったのか』と理解します。だから、褒める場面としかる場面のメリハリもはっきりつけています。大学野球や社会人野球と上のカテゴリー、そして野球を辞めて社会に出た後の人生でも、しっかりと判断ができる人は社会に必要とされる。そんな人材を輩出してきたのが作新学院の伝統なので、そうなってほしいという思いを強く持っています」

選手に深く考えさせて、的確な判断ができるようにする。小針流の「考える野球」はまもなく始まるセンバツでどのような輝きを見せるのか。夏春連覇という大きな夢を目指し、作新学院は3月22日、帝京第五(愛媛)を相手に初戦を迎える。

(文中敬称略)

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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