甲子園連覇狙う作新学院「考える野球」の真髄 なぜ、「送りバント」があれほど少ないのか

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小針の指導者としての原点は、母校の筑波大学ともう1つ、その名も「甲子園塾」にある。2008年から続く甲子園塾は、高校野球の若手指導者育成のための研修会だ。原則として教員で指導歴が10年以下の若手がベテラン指導者と合宿を行い、座学や実技の講義を受ける。講師を務めるのは、故・尾藤公(箕島・和歌山)、高橋広(鳴門工業・徳島)、山下智茂(星稜・石川)といった、高校野球史で名だたる監督たちだ。

ここで指導を学んだ小針は、2009年夏、若干26歳でチームの甲子園出場という成果を上げる。ところが、意気揚々と臨んだ初戦、長野日大(長野)の中原英孝監督との間に、明確な力量の差を感じたという。試合は8-10で敗れた。接戦でこそ、監督の手腕が問われることを痛感した。

「甲子園での戦い方、流れを読む力、ベンチワーク、すべての面において、自分の見通しの甘さを痛感しました。当時は甲子園に出るだけで精いっぱい。出るだけで満足していた自分がいた。その失敗から、甲子園で勝ち抜くには『本物』でないといけないと気づき、野球への取り組み方からすべてを変えました。甲子園という場を知ったことが、本当の意味での指導者としての始まりでした」

甲子園で敗れ、考え直した野球の原点

小針はそこから「ストライク」「ボール」の意味にまで立ち返り、野球の原点から考え直したという。高校野球は選手と監督だけでやるものではない。判定を行う審判に保護者、さらには観客。どれだけたくさんの人が野球にかかわっているか、という心構えを選手にも説くようになった。「ストライク、ボールの判定1つずつに審判の思いがあり、理由がある」。技術もさることながら、野球に対して深く考えることのほうがもっと大事だ。そう考えた小針は、自らのマインドをチームに伝えると同時に実践も進めた。

その1つの表れが、昨年の優勝チームで1年を通じて行ったルーティンワーク「即ブリ」だった。「即ブリ」という言葉からは、バットを振る素振りのような特訓を連想するかもしれないが、そうではない。「振り返る」という意味での「即ブリ」である。具体的には、凡打に終わった打席の後、すぐにその原因をベンチ横で1、2分かけて振り返る取り組みだ。

「なぜ打ち損じたのか、次の打席に向けた課題は何なのか。失敗の経験をどう生かすのか。そんな振り返りをベンチに帰ってくる前に、すぐ行うことを継続しました。失敗をいかに成功につなげるか、ということを普段の練習や試合の中で取り組んでいます」

失敗した経験を無駄にせず、成功へつなげること。そのサイクルを徹底して繰り返すことが、小針のマネジメントの特徴といえるだろう。

昨夏の甲子園優勝の立役者となったのは、昨年ドラフト1位で西武ライオンズへ入団したエースの今井達也投手だった。自身初の大舞台で、150キロ台のストレートを連発する圧巻の投球内容で対戦校をねじ伏せていった。小針も「1人の投手の存在によって、チームができていった」と今井の存在が大きかったことを認めている。

だが、最初から順調だったかというと、そうではない。初めのうちは、今井もチームを牽引する「エース」にはほど遠かったのだ。

次ページ今井達也投手が「ドラフト1位」に評価を上げたワケ
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