ビル・ゲイツ「ロボットに課税を」発言の課題 これは社会制度の設計にまで広がるテーマだ

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課題2. 競争で生じる雇用喪失はどう扱うのか?

たとえば、アマゾンの音声認識AI「Alexa」がますます便利になって、より多くの人がアマゾンでモノを購入するようになった結果、競合のウォルマートで雇用が消失した──。このようなケースは、どう捉えるのだろうか。

これは「マシン」の動向と関係なく、すでに生じている事態でもある。この雇用消失によって失われた所得税を、「Alexa」税のような形でアマゾンから徴収するのだろうか?

課題3. 「ロボット導入は雇用の維持・増加につながる」という考えは?

先頃、欧州議会でロボット税導入を提言する案が否決された。却下されたのは「ロボット導入を阻害すれば企業の競争力が低下し、その結果、人間の雇用も失われてしまう」という理由だった。

ロボット税の導入に反対を表明していた業界団体「IFR」は、ドイツの自動車業界の例などを挙げながら、「(製造業で従業員1万人あたりの稼動ロボット台数を示す)ロボット密度と雇用数との間には相関関係がある」と反対の理由を説明していた。

その一方で、たとえばヘッジファンドが地域に根ざしたメーカーを買収し、猛烈に合理化させた結果、当該企業だけでなくその地域全体の経済が停滞したという例がある。ベインキャピタルのCEOだった経験を持つミット・ロムニーは前々回の大統領選で、そうした企業破壊を伴うビジネスを展開したとして、よく批判されてもいた。

こうした経営者や投資家の貪欲さに歯止めをかける方法が見つけられなければ、ロボットに対する課税も難しいのではないか。

ロボット税とベーシックインカム

ゲイツは「人件費削減によって得られる効率化から生み出された利益に課税する手もあるし、ある種のロボット税を導入するという手もあるだろう」と話しているだけで、それ以上のことは口にしていない。

「利益に課税」となれば、ロボット導入で浮く人件費から、導入にかかるコストを差し引いて、その差額に対して課税となるのかもしれない。しかしその場合、導入される製造ラインの稼働率などはどの程度が妥当とされるのかという点も取り決めが難しい。ならば、ロボットを通常の生産財と同じものとして処理し、代わりに最終的な利益に課税する普通の方法のほうがよほどシンプルだ。

はっきりしているのは、もう何年も前から一部の先進国で法人税引き下げの動きが進んでいることと、雇用創出や地域経済の活性化を目的とした企業の誘致合戦が続いていることだ。前者は約30年ぶりの大規模税制改革を目指す米国議会でまさに議論が活発化しており、現行の税率35%を共和党は20%まで、トランプ大統領は15%まで引き下げたい考えだ。英国でも昨年後半、テレサ・メイ首相が現行の税率20%を2020年に17%、そしてさらに15%程度まで引き下げる考えを示唆している。後者については実に様々なケースがあるが、たとえば昨年暮れにアップルはインドでiPhoneの製造を始めるにあたって、税制面での様々な優遇策を要求した。

こうした法人税率の引き下げや優遇策も、それによって生み出される雇用を通じて個々人から所得税を得られているうちはいい。しかし、何も手を打たぬままロボット導入が進んでしまえば、個人にとっては失業の危機だが、国や自治体にとっては「課税ベースの縮小」という問題につながりかねない。そうなれば、ある種のセーフティネットとして話題に上ることが多くなってきたベーシックインカムも、「どこから原資を確保すればいいのか?」という事態になりかねない。

ロボットを含む「マシン」と税金の話は、社会制度の設計というテーマにまで話が広がるようだ。

参照情報

(文:坂和敏)

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