年1400万円のがん免疫薬が突きつける課題 「キイトルーダ」は第2のオプジーボになるか

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現在では、免疫チェックポイント阻害薬が無効な人にも効かせようという取り組みが、着々と進められている。この1月、オプジーボの開発者である本庶氏らは、マウスの実験で、抗PD-1抗体と脂質異常症の治療薬(「ベザフィブラート」)を併用すると、治療効果が大幅に増強することを確認した。

さらには、スナイパー(狙撃)の働きをする分子標的薬も、がん患者のゲノム(全遺伝子情報)に基づいて、どんどんと精度を高めている。この領域の第一人者として、2つの肺がん治療薬、米ファイザーの「ザーコリ」(一般名「クリゾチニブ」)と、中外製薬の「アレセンサ」(同「アレクチニブ」)の開発につながる標的(ALK融合遺伝子)を発見した間野博行氏は、現在は東京大学教授と国立がん研究センター研究所長を兼務する。分子標的薬の課題は、使い続けるうちに効きが悪くなる「耐性」の克服と、脳転移を防ぐために薬が脳内に届くことだ。間野氏は「この2つがクリアできれば、免疫療法など、他の治療法と組み合わせて根治を目指す方向に行く」と予想する。

がんの治療の選択肢が広がれば、治療成績の向上にも期待がかかる。もっとも、その反面、薬剤費はとてつもなく増大する可能性がある。今後登場する免疫チェックポイント阻害薬も、月額100万円前後となる高額な薬剤になるのは間違いないだろう。

国民皆保険の何をどこまで維持するか

がん免疫療法が過渡期で、限られた人にしか効かない治療であったとしても、それを真に必要な人に届けるためには、国民皆保険の何をどこまで維持するかの線引きについて、もっと真剣に考えるときに来ているのかもしれない。たとえば、透析患者の医療費には年間約2兆円が投じられているし、薬の飲み残しは在宅の75歳以上の高齢者だけでも年間約475億円に達するとされる。むろん、それらの中には不可避なものもあるだろうが、予防などの努力で解消できるものもある。

何より大事なのは、がんにならないことではないか。遺伝要因は現状では不可避だとしても、環境要因として、喫煙やアルコール、食習慣、運動不足、ウイルス……をはじめ、発がんのリスクとなることが知られているものがいくつもある。長生きの宿命として、われわれががんにどう向き合うか、これから一人ひとりが考えていかなければならない。

塚崎 朝子 ジャーナリスト/博士(医学)・慶応義塾大学非常勤講師

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つかさき あさこ / Asako Tsukasaki

東京都世田谷区生まれ。読売新聞記者を経て、医学・医療、科学・技術分野を中心に執筆多数。国際基督教大学教養学部卒業、筑波大学で修士(経営学)、東京医科歯科大学で修士(医療管理学)。再生医療・新薬開発など生命科学に関する取材経験が豊富で、専門家向け・一般向け双方に分かりやすく解説。

著書に、『免役の守護者 制御性T細胞とはなにか』(坂口志文氏との共著、講談社)、『iPS細胞はいつ患者に届くのか』(岩波書店)、『世界を救った日本の薬 画期的新薬はいかにして生まれたのか?』(講談社)、『新薬に挑んだ日本人科学者たち』(講談社)ほか。

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