年1400万円のがん免疫薬が突きつける課題 「キイトルーダ」は第2のオプジーボになるか
が、どれも期待に応えるには力不足で、がん免疫療法には何となくうさん臭さもつきまとっていた。
そこへ、免疫にブレーキをかける、免疫チェックポイント分子の発見が相次いだ。米国のジェームズ・アリソン氏が1995年に発見したのが「CTLA‐4」、それに先立ち、京都大学の本庶佑(ほんじょ・たすく)氏が1992年に見いだしたのが「PD-1」だ。両者のメカニズムは異なるとはいえ、共に免疫細胞の表面に現れて免疫機構を抑えつける。
従来の免疫療法は、免疫機構の“アクセルをふかす”治療が中心だったが、新たに“ブレーキを外す”という逆転の発想が生まれた。米国でキイトルーダが、そして、2014年に世界に先駆けて日本で承認された抗PD-1抗体があの、オプジーボである。
オプジーボもキイトルーダも、長らく不毛状態だったがん免疫療法の扉を開き、手術療法や化学療法(旧来の抗がん剤)、放射線療法と並び立つ、”第4の治療法”となった。米国の一流科学誌『Science』誌は、2013年の「Breakthrough of the Year」にがん免疫療法を選出しており、ノーベル賞の呼び声も高い。
免疫薬同士の併用、抗がん剤との併用も
注目される免疫チェックポイント阻害薬は、いまや百花繚乱といえば聞こえはよいが、実状はドングリの背比べかもしれない。河上教授は「どの薬がどのがんで承認されるかは、企業のマーケティング戦略にもよる」と指摘する。
がん免疫薬同士の組み合わせに活路を見いだそうとする動きも活発だ。免疫チェックポイント阻害薬でも、抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体はメカニズムが異なるため、併用が可能。たとえば、悪性黒色腫(メラノーマ)でオプジーボとヤーボイを併用する試験も行われており、奏効率は、オプジーボ単独では約3割だったのが、併用で約6割に倍増するという結果が得られており、初期の抗腫瘍効果だけでなく、5年生存率の延長さえ期待されている。もっとも、よいことずくめではなく、副作用として、免疫を活性化することによる自己免疫反応(免疫機構が自己の細胞を攻撃する反応)のリスクも増加する。さらに国の保険財政に対しても、高額の薬剤費がのしかかってくるのだ。
一方で、近年、抗がん剤として注目されているのが、特定のがんの増殖にかかわる分子をピンポイントで狙い撃ちにする、「分子標的薬」というタイプの薬である。実は、こちらも免疫チェックポイント阻害薬との併用で、がん攻撃の効果が高まる可能性もあり、各メーカーがしのぎを削っている。分子標的薬も、免疫チェックポイント阻害薬ほどではないにせよ、高額な薬剤である。両タイプの薬を併せ持つ企業では、自社製品同士の組み合わせが奏効すれば、利益が拡大するという思惑も働くはずだ。
この先、治療の組み合わせについては、がんワクチンなどにも広がる可能性がある。だが、薬による治療が、手術を不要にする治療になるかどうかは懐疑的である。手術療法には、腫瘍を完全に切除できれば根治療法になる、という実績がある。河上氏は「免疫療法や薬物療法は、現時点では切除する限界を超えたがんに対して行うもの。局所にとどまるがんに対しては、手術に替わるほどの確実性はない。副作用も免れえず、またコストを考えても、まだ理想的な治療とは言えない」と語る。
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