【洞爺湖サミットに何を期待するか】(第5回)グローバルな平和育成への契機(後編)
国連大学高等研究所客員教授 功刀達朗
(第4回より続き)●企業の平和育成への参画と責任
1970年代以来のCSRの3つの要素(◆社会に迷惑をかけない - コンプライアンス ◆本来の機能を全うする - 収益を上げ税金を収める ◆社会貢献を行う - 環境貢献、地域社会への貢献、国際貢献)は、過去10年ほどの間に時代の要請に応え変容してきた。今日では、環境、貧困、人権、紛争など人類社会が直面する課題を企業はどこまで自分たちの課題として認識し危機感を共有化できるのかが問われている。言い換えれば、「企業は社会とインタレストを共有すべき」と言うことになる。
2000年にコフィ・アナン前事務局長の提唱で生まれた国連グローバル・コンパクト(GC)は、人権、労働、環境、腐敗防止に関する世界的に確立された10原則を企業が支持することを求めている。GCには現在120ヶ国から約4,000の企業(日本からは60)が参加し、6つの国連機関と約1,000の国際NGO、労働組合、自治体の協力を得て実質的発展の段階に入っている。ここで問題なのは、GCの対象には国連の最も重要な目的・機能である平和と安全保障が入っていないことである。
企業の代表を招いた2004年4月15日の安保理において、アナン前事務総長は企業が紛争の終息に貢献する例もあるが、かえって紛争を助長する具体例を挙げ、企業の責任自覚と協力を呼びかけた。企業が紛争を助長する例としては、紛争ダイヤモンド、資源の枯渇、環境破壊を招く企業活動、武器取引、傭兵企業などがある。またその一方では、紛争予防や平和構築に現地で、或いは間接的に、企業活動が効率的に寄与する例もある。
2000年のミレニアム宣言および2005年の世界サミット成果文書は、平和と開発分野における国連システムを中心とする国際社会の活動に対する企業、NGOを含む市民社会、議会、自治体の協働を求めている。実際、人々の安全への脅威と格差をばら撒くグローバル化の挑戦に対抗し、持続的平和と開発を推進するためには、国家、国際機構、市民社会、企業などすべてのステークホルダー(利害共有者)の協働・シナジーが必須である。
昨年秋以来、GCのアカデミック・ネットワーク・ジャパンの有志の間で協議し、国連のGC事務局、International Alertなどの国際NGO、国内外の諸組織と協力して、平和と軍縮に貢献する企業活動の事例研究、企業平和責任(CPR)に関する原則の起草が徐々に進められている。このような作業が、日本の市民一般からだけでなく、政府と産業界からも賛同を得て、具体的提案が日本から早期に発信されることが望まれる。ちなみに、昨年のG8サミットは「世界経済の成長と責任」に関する宣言の中で、GCは「CSRに関する重要なイニシャチブ」であると認め、GCへの積極的参加をすべての国の企業に呼びかけている。
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