セーフティネットの利用までは行かなくても、高齢者を中心に『Life Shift』が指摘するような「長生きリスク」を感じている人が増えている可能性は高い。そして、これが高齢者の消費を抑制している可能性があるだろう。「望ましい引退年齢」が上がり、人生の資金計画が安定しないかぎりは消費を抑制せざるをえない。
日本老年学会と日本老年医学会は1月5日、現在は「65歳以上」とされる高齢者の定義を「75歳以上」に引き上げるべきだという提言をまとめた。健康な高齢者が増えたことで、健康寿命も延びているという。「マルチステージ」化を進める必要性は増している。
むろん、労働市場の流動性が高くない日本の場合は特に「マルチステージ」化を進めることが難しい。「マルチステージ」に対応した労働者と「社畜」は正反対の存在だ。新卒で入った会社にしがみついていれば年功序列で十分な賃金が得られた時代のイメージを変えることに苦労している現状に鑑みると、当面の高齢者消費は節約志向の「ジリ貧」が続くといわざるをえない。
注意!平均寿命とは「0歳の平均余命」
今回議論した平均寿命(=0歳の平均余命)の概念は意外に分かりにくい。日本の女性の平均寿命(2015年時点)は87.1歳だが、これはあくまでも2015年時点で0歳の女性の平均寿命であり、たとえば75歳の女性の平均寿命は異なる。2015年時点で75歳の女性の平均余命は15.9歳であり、(すでに75歳になった女性の)平均寿命は90.9歳(75+15.9)である。すでに75歳まで生きた人の余命を計算すれば、平均値は高くなりやすいため、一般的な(0歳の)平均寿命より大きな数字になる。
2005~2015年の10年間で日本の女性の平均寿命は1.6歳延びた(85.5歳→87.1歳)。しかし、2005年時点で65歳だった女性の平均余命は23.2歳だったので平均寿命は88.2歳(65+23.2)となるが、2015年時点で75歳の女性の平均余命は15.9歳なので平均寿命は90.9歳(75+15.9)となる。したがって、2005年時点で65歳だった女性が感じる寿命の変化はプラス2.7歳(90.9-88.2)となり、一般的に参照される(0歳の)平均寿命の変化であるプラス1.6歳を上回る。なお、同様の計算を男性に行うと、10年間でプラス3.9歳(87.0-83.1)となる。
つまり、生きていけば生きていくほど、自分は思ったよりも長生きしそうだという感覚を持ちやすい。医療の進歩などによって全体の平均寿命が延びるだけでなく、このような数字のマジックによっても「長生きリスク」を感じやすいことには留意が必要だ。
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