「人生100年時代」への対応の遅れは大問題だ 長寿国の日本こそ「マルチステージ」化が必要

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

セーフティネットの利用までは行かなくても、高齢者を中心に『Life Shift』が指摘するような「長生きリスク」を感じている人が増えている可能性は高い。そして、これが高齢者の消費を抑制している可能性があるだろう。「望ましい引退年齢」が上がり、人生の資金計画が安定しないかぎりは消費を抑制せざるをえない。

日本老年学会と日本老年医学会は1月5日、現在は「65歳以上」とされる高齢者の定義を「75歳以上」に引き上げるべきだという提言をまとめた。健康な高齢者が増えたことで、健康寿命も延びているという。「マルチステージ」化を進める必要性は増している。

むろん、労働市場の流動性が高くない日本の場合は特に「マルチステージ」化を進めることが難しい。「マルチステージ」に対応した労働者と「社畜」は正反対の存在だ。新卒で入った会社にしがみついていれば年功序列で十分な賃金が得られた時代のイメージを変えることに苦労している現状に鑑みると、当面の高齢者消費は節約志向の「ジリ貧」が続くといわざるをえない。

注意!平均寿命とは「0歳の平均余命」

今回議論した平均寿命(=0歳の平均余命)の概念は意外に分かりにくい。日本の女性の平均寿命(2015年時点)は87.1歳だが、これはあくまでも2015年時点で0歳の女性の平均寿命であり、たとえば75歳の女性の平均寿命は異なる。2015年時点で75歳の女性の平均余命は15.9歳であり、(すでに75歳になった女性の)平均寿命は90.9歳(75+15.9)である。すでに75歳まで生きた人の余命を計算すれば、平均値は高くなりやすいため、一般的な(0歳の)平均寿命より大きな数字になる。

2005~2015年の10年間で日本の女性の平均寿命は1.6歳延びた(85.5歳→87.1歳)。しかし、2005年時点で65歳だった女性の平均余命は23.2歳だったので平均寿命は88.2歳(65+23.2)となるが、2015年時点で75歳の女性の平均余命は15.9歳なので平均寿命は90.9歳(75+15.9)となる。したがって、2005年時点で65歳だった女性が感じる寿命の変化はプラス2.7歳(90.9-88.2)となり、一般的に参照される(0歳の)平均寿命の変化であるプラス1.6歳を上回る。なお、同様の計算を男性に行うと、10年間でプラス3.9歳(87.0-83.1)となる。

つまり、生きていけば生きていくほど、自分は思ったよりも長生きしそうだという感覚を持ちやすい。医療の進歩などによって全体の平均寿命が延びるだけでなく、このような数字のマジックによっても「長生きリスク」を感じやすいことには留意が必要だ。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事