エジプトで"味の素"を売り込む秘訣 エジプトの食卓に革命を起こす男(中)

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味の素に集う有能な若者たち

この日、スークに同行した宇治さんは、いきなり屋台の総菜屋で試食のデモンストレーションを行った。

並んだおかずを次々と手に取り、味の素を振りかけて道行く人々に食べさせていく。まず自ら口に運び満面の笑みで警戒心を解く。次に店の主、調理人、そして買い物客、通行人。どんどん人が集まり出す。

「ハッスンターム、アジノモト(うま味調味料の味の素です)」

勢いに圧倒されていたエジプト人セールスマンも、しだいにアラビア語で客たちに説明するようになる。商品を売るだけではない。現地スタッフへの教育も同時に行っているのだ。

一緒に行って、目の前でたくさんモノを売って見せること。範を示すには、それが最も効果的だと宇治さんは言う。彼は前任地のインドでも、その前のベトナムでも、つねに最前線でリテール活動を行ってきた。不慣れなアラビア語を織り交ぜ、ときに日本語でたたみかける。厳しい戒律のイスラム女性も思わず目を向け、味の素に手を伸ばす。商談は慎重で大胆。困難な現場での豊富な経験によって、繰り出す引き出しは多彩だ。

「なかなか買ってくれなかった店が、今日は買ってくれました」

若いセールスが午後になって笑顔を見せた。入社してまだ日が浅く、ずっと緊張の面持ちだった若者である。宇治さんが同行した影響は大きいが、彼にとってはうれしい成功体験だったに違いない。

宇治さんたちはローカルセールスとともにスークを歩き、味の素を売る。

実は、彼はカイロ大を卒業した、いわゆるエリート。英語も堪能だ。コンビを組むもうひとりもカイロ大卒で、弁護士の資格を持っているという。

現在、従業員は18人。進出当初から課題のひとつに、彼らローカルスタッフの人材確保の問題があった。しかし、ここにきて入社を希望する有能で若い人材が急激に増えているという。同社にとってはチャンスに違いないが、それはこの国の若者に圧倒的に仕事がないという、厳しい事情を反影している。

エジプトは今、深刻な経済危機に陥りつつあった。

※ 以下は最終回に続く

木村 聡 写真家、フォトジャーナリスト

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きむら さとる / Satoru Kimura

1965年、東京都生まれ。新聞社勤務後、1994年からフリーランス。国内外のドキュメンタリー取材を中心に活動。ベトナム、西アフリカ、東欧などの海外、および日本各地の漁師や、調味料職人の仕事場といった「食の現場」の取材も多数。写真展、講演、媒体発表など随時。

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