40代は「一生食える力」の最貧困世代である 佐々木俊尚が語る「ゆるいつながり」の大切さ

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彼らにはコミュニティがあるし、近所の農家から野菜や米をもらって生活しているから、おカネもそんなにかからない。一方、年収が400万円あっても、都心に住んで高い家賃を払って友人も少なくて、毎日コンビニ弁当を食べている。どちらが文化的貧困かは明白でしょう。

先日、NPOグリーンズ代表の鈴木菜央さんと可処分所得の話をしていたんですが、年収1000万円を稼いでいても、専業主婦の奥さんと子供が2人いたら、結構カツカツです。そのうえ、多くの人は年収に見合った生活を送ろうとしたがる。やたらと高層のマンションに住んでみたり、輸入車を買ってみたり。すると日々の生活がますます苦しくなる。

でも年収200万円で、生活にかかるおカネが100万円。残りが可処分所得になるのだとしたら、月に1度は東京の高級フレンチにも行ける。車だって、とりあえず走れば中古のカローラでいい。そっちのほうが、よっぽど豊かな生活といえるのではないか。

もちろん文化的貧困の度合いを定量的に測ることは難しいのですが、少なくとも「こうあらねばならぬ」という呪縛から抜け出してみてもいいんじゃないかな、と思いますね。

私は20代の友人がたくさんいるんですが、彼らを見ていると、人と仲良くなるのが非常にうまい。あっという間に知らない者同士でつながっていくし、年齢なんか誰も気にしないんですよね。ヒエラルキーの世界で生きていないんです。

役所や大企業にいる人は、入社年次をやたらに気にする。自分より上か下か、その序列で関係性が決まるからです。要するに自分のポジショニング。でも今は、年齢による感覚の違いはなくなりつつあります。40代でも60代でも、20代と同じ音楽を聴いていたりする。フラットな社会では自分のポジションを規定しにくいんです。何を軸にしていいかわからないから、ともかく知らない人とでも仲良くなっておく。彼らが意識しているかどうかは別として、それがフラットな社会の生存本能だと思います。

ヒエラルキーが壊れると死ぬまで働ける

佐々木 俊尚(ささき・としなお)/ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、月刊アスキー編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮しを実践。『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)など著書多数。

「若い世代とどう付き合っていったらいいかわからない」という声も耳にしますが、そういう人は年齢とか経験値でマウンティングしているんじゃないかな。大事なのは、自分が偉いと思わないことです。

私自身、会社員時代はそうした序列にどっぷり浸かっていましたけど、テクノロジーやメディアなど、常に動き続ける対象を取材してきたせいか、自分がかつてもっていた知識や経験にあまり価値を置かなくなりました。新聞記者時代の経験で役に立っていることといえば、インタビュー力ぐらい。

ヒエラルキー構造が崩壊すると何が起こるか。死ぬまで働けるんですよ。相互作用の社会は特にそうです。ヒエラルキーの中では自分の居場所が固定されますが、相互作用の社会なら、その人の能力や人柄、あるいは人間関係によってその都度、居場所が変わっていく。40歳のときにできる相互作用もあれば、80歳のときに生まれる相互作用もあります。そう理想どおりにいくかどうかは別としても、全体としてそういう方向にいかざるをえない。『ライフ・シフト』の100年人生の生き方にも通じると思います。

これからの長い人生をどう生きるか。ロールモデルとなる存在はいません。従来の価値観に縛られている人は、暗澹(あんたん)たる気持ちになるかもしれない。でも変化を楽しめるかどうかが大事。どうせ価値観も働き方も激変していくんですから、楽しまないともったいないと思いますよ。

佐々木 俊尚 作家・ジャーナリスト

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ささき・としなお / Toshinao Sasaki

1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数。

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