悪いインフレは、本当に起きないといえるのか 物価上昇率が決まるメカニズムは、まだ解明されていない

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これまでマイナスを続けていた消費者物価上昇率が5月にゼロになった原因は、電気料金の値上げや円安による食料品価格の上昇だ。需要が拡大して物価が上昇するというディマンド・プル型のインフレであれば、企業収益は拡大し賃金の上昇・消費の拡大という持続的な経済の拡大が期待できる。しかし、電力料金の値上げや円安による輸入物価の上昇という費用増を販売価格に転嫁することによる物価上昇では、企業利益の大幅な拡大は望みにくい。

かつて良いデフレ・悪いデフレという論争があったが、コスト・プッシュ型インフレは日本にとって好ましいインフレではない。7月には小麦粉やパンなどの値上げが予定されており、この背景には円安による輸入価格の上昇という要因がある。

米国の金融政策が出口を模索し始めた一方で、日本は量的・質的金融緩和がスタートしたばかりで、日米の金利差の拡大から円安が進む可能性が高い。今後さらに輸入物価の上昇によるコスト面からの物価上昇圧力が高まる方向にある。

円安によって日本経済がデフレから脱出できたとしても、期待されているような需要の増加を反映したディマンド・プル型の物価上昇よりは、輸入した原材料や製品の価格上昇というコスト・プッシュ型の悪い物価上昇の色彩が濃いものになってしまう恐れが大きい。

需給ギャップは、信頼できる指針ではない

日銀の金融緩和や政府の財政刺激による需要拡大には大きな効果が期待できず、需給ギャップがある間は需要不足なのだから大幅な物価の上昇は望めない。これが民間エコノミストの描いている今後の物価推移の標準的な姿だろう。

逆に言えば、需給ギャップが大きく開いているのだから相当大胆な政策を行っても急速なインフレになる心配はない、という主張の論拠にもなる。だが、ここには2つの問題がある。

次ページ需給ギャップ(GDPギャップ)の2つの問題
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