しかし1970年代ころから、先進諸国は不況の中でインフレが起こるという問題に悩まされることになった。高失業率とインフレの昂進が同時に進行するスタグフレーションの発生である。1980年代前半には日本のGDPギャップはかなりのマイナスだったが、この時期に物価上昇率がマイナスだったわけではなく、今から見ればかなり高い水準だった。
スタグフレーションは、硬直的な雇用制度などによって高失業率下でも賃金の上昇が続き供給曲線が右方向にシフトして起こるコスト・プッシュ型のインフレとして説明されることもある。しかし、1980年代の欧州では失業率が10%近くで推移するなど、経済全体としては大幅な供給超過の状態にあったはずだ。それでも物価上昇率が高かったのだから、GDPギャップのプラス幅が大きく広がらなければインフレの制御に心配はいらないというのは、楽観的すぎるだろう。
状況を見ながら、徐々に政策を変更するべき
筆者は、「現在の経済学では物価上昇率がどうやって決まるのか、十分に解明できていない」と理解している。どうしてスタグフレーションのようなものが発生するのかよくわかっていないのだから、インフレは容易に制御できるとは言えない。
日本経済全体では供給力が余っていても、一部の市場で需要超過が発生して物価水準が上昇していくことはあり得る。物価を制御するためには、状況を見ながら徐々に政策を変更するしかないというのが、過去の金融政策の経験だったはずだ。
すっかり忘れている人も多いだろうが、2008年には2%を超える物価上昇が起こっていたのだから、デフレからの脱却に際してインフレの行き過ぎが起こることを懸念するのは、決して「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」というような類の杞憂ではないと考える。
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