その手法は決して上品なものとはいえず、どちらかというと禁じ手といわれるものも多い。筆者はハーバードロースクールのネゴシエーションプログラム「Program on Negotiation(PON)」に通ったが、そこでまず教えられたのが、相手を打ち負かすのが交渉の真の目的であるべきではなく、相手にとっても得となるWin-Winの結果をもたらすことが交渉の王道であるということだった。
一方でトランプの考え方は食うか食われるか、だ。それもそのはず、儲かる不動産取引の要諦は「安く買って、高く売る」。それに尽きるからだ。だから買いたたき、高く売り付ける。そのためにあらゆる手練手管を尽くし、競合を出し抜き、心理戦で交渉相手をたぶらかせる。
では、トランプ流交渉術におけるダーティートリックとは具体的にどのようなものか。
これが「トランプ流交渉術」だ
① どんなパブリシティも得になる
ネガティブな報道を恐れる経営者も多いが、彼はどんな悪い話でも取り上げられないよりは断然いい、と信じている。まったく無名だった彼が、不動産業界で成功するきっかけとなったのは、数々のメディア報道だった。相手に不利な情報や自分に有利になる情報をメディアに流しては、つねにニュースにしてきた。だから、その威力を誰よりも知っている。「メディアはセンセーショナルな話を欲しがっている。ほかの人や企業と違うこと、とんでもないこと、大胆なこと、物議を醸すこと。これらを提供すればメディアは書いてくれる」「何も言われないより悪く言われたほうがまだまし」。Twitterで悪口雑言を吐きまくっても、それが取り上げられることがメリットだと信じて疑わないのだ。だから、「トランプ砲」がそう簡単に鳴りやむとは思えない。
② Think Big(でっかく考えろ)!
「メキシコとの国境に巨大な壁を作る」「不法移民は排斥する」「在日米軍を撤退させる」などなど、荒唐無稽な発言をするが、それらを忠実にすべて実行しようという考えは実はないのだ。交渉におけるナンバーワンルールは本当に望む金額や条件を相手に教えてはならないということ。
たとえば、1億円で売りたいと思ったら、3億円と最初に提示しなければならない。なぜなら、その最初に提示される数字や条件がアンカー(錨)となり、交渉のレンジ(幅)を決めてしまうからだ。これをアンカリング効果と呼ぶが、トランプの場合、この「第一投」が半端なく高い。普通はキャッチャーが受け取れる範囲で投げてくるものだが、彼はお構いなし。最初にとんでもなく高い球を投げた後に、次に少しだけ下げて投げてくる。相手はほっとして、その球を受け止めてしまう。気づいたら、彼の言い分に限りなく近い条件をのんでしまうというわけだ。
トランプは言う。「まずは、とにかく要求してみることだ。頼まなければ何も手には入らないのだから」、そして、「Think Big(でかく考えろ)」と。だから、トランプの「巨大打ち上げ花火」に狼狽し、鵜呑みにしてはならない。
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