「育てられ方」と性犯罪は相関関係があるのか 性犯罪加害者の母親は自分を責めるが……

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「父親の心の動きとして典型的なのは、まず自分は仕事をして家族を養ってきたという免罪符を持ち出し、事件から目を逸らそうとします。息子を理解しようと努める父親でも、“ムラムラするのは男として理解できるが、やっちゃいかん”といった、同性ならではの認知でとらえる人も少なくありません。“お前には、気合が足りない”“仕事さえまじめにやっていたら、そんな気は起きないはずだ”“性犯罪をするぐらいなら、なぜ風俗に行かないのか”と、自らの経験を基にズレた視点で息子にアドバイスする姿を、妻が冷ややかな目で見ているのにも気づかない……といったありさまです」

反復する性的逸脱行動は、性嗜好障害、つまり性依存症という病気によるものであり、精神論は意味がない。また、風俗で体験できるのとはまったく別のスリルやリスク、支配感、達成感を求めて彼らは問題行動を繰り返す。「同じ男だから理解できる」と錯覚する父親は、そうした重要な事実を見落としている。

父親が子どもの精神的な問題にかかわらないのは、性犯罪の加害者家族臨床に限った話ではない。うつや引きこもり、摂食障害、そのほかの依存症――いずれの現場でも母親だけが立ち会い、父親は姿も見せないことが多い。子どもの問題にはわれ関せず、というより、どうかかわっていいのかわからないのだろう。

妻の夫への望みは「自分のサポート」

「それでも来てくれる父親たちに、何をしてもらえばいいのか。妻である母親たちに尋ねたところ、“私をサポートしてほしい”というシンプルな回答を得ました。彼女らは息子が性犯罪を犯したという非常事態を前にして、誰かにしっかりホールディングしてほしいと思っているのです。これは物理的に抱きしめてほしいという意味ではなく、必要なときに隣にいてほしい、困ったことがあったら一緒に考えてほしい――そんなささやかなことなのです。本来なら、夫婦において当たり前の行為ですよね」

東京・榎本クリニックで性犯罪加害者の再犯防止プログラムに注力する斉藤章佳氏(精神保健福祉士・社会福祉士)

これまでの人生を、妻にサポートしてもらいながら生きてきた。言われなければ、息子の裁判にも足を運ばず、すべてを妻に任せていた。非常事態の中で、自分ひとりが宙ぶらりんでいたからこそ、いったん目指すべき方向性が見えると喜々としてサポート役に徹する父親もいる。それにしても、母親が自責の念に苦しめられ、絶望の中で半生を振り返りながら罪を犯した息子と向き合い直す過程と比べると、ずいぶん負担が軽く見えるが……。

「母親たちは、今さら父親として息子と向き合ってほしいとは思わないようです。だったらせめて私のサポートを、というのが本音でしょう。息子も、それを求めていないケースが多いです。日本の家庭にいかに父親が不在であるか――性犯罪加害者家族支援を読み解くうえで重要なヒントとなりうる問題です」

父親が課された役割を果たし、母親が息子の問題と自身の子育てを切り離して考えられるようになると、時間はかかるがそれぞれの再生の道が見えてくる。特に息子の受刑中は、罪を犯した当人は塀の中にいることで社会と隔絶され、ある意味“守られて”いる。社会の激風を一身に受け止めるのは家族であり、しかし彼らは犯行にいっさい関与していない。ゆえに、継続的な支援が必要なのだ。

また、息子が出所し、社会の中で再犯防止プログラムを受けることになったとき、家族の存在がプログラム継続率を大きく左右する。間接的にではあるが性犯罪発生件数減少にもつながる方策として、今後、ますます加害者家族への支援が注目されていくことを期待したい。

三浦 ゆえ フリー編集&ライター

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みうら ゆえ / Yue Miura

富山県出身。複数の出版社を経て2009年フリーに。女性の性と生をテーマに編集、執筆活動を行う。『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』シリーズや『失職女子』などの編集協力を担当。著書に『セックスペディア-平成女子性欲事典-』がある。

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