「育てられ方」と性犯罪は相関関係があるのか

性犯罪加害者の母親は自分を責めるが……

同氏が所属する東京・榎本クリニックでは2006年に性犯罪加害者を対象とした“再犯防止プログラム”を日本で初めて開始し、常習化すれば再犯率が比較的高いといわれる性犯罪者が、二度と女性を傷つけないよう治療を行っている。同時に注力しているのが、「家族支援グループ」である。妻の会、母親の会、父親の会があり、痴漢行為を中心にさまざまな性犯罪を犯した男性の家族が、事件と自身のかかわりを見つめなおし、再生を目指す。

今夏、「母親の会」で、先に述べたベテラン女優の記者会見をテーマにミーティングが行われた。母親らは「痛いほど気持ちがわかる」と一様に強い共感を示したという。

「育てられ方と反復する性犯罪に何らかの相関関係があるのか、そして育てられ方は性犯罪の主なリスク要因になりうるのか、という問題からお話しましょう。当クリニックを受診する加害男性を見ると、生育歴に重大な問題を抱えているのは少数派です。性的逸脱行動は親の育て方から受け継ぐものではなく、ひとりの男性が社会の中で自ら学習するものです。ストレスなどへの対処行動である場合が多く、繰り返すことで行動が強化されます。もちろん虐待など重大な機能不全の問題が家庭にある場合もないわけではないですが、家族は犯罪のリスク要因としてそれほど大きくはありません」

しかし、当人も周囲もそうは思わない。

「母親は自分で自分を責め、社会から責め立てられます。さらに本来なら子育てのパートナーであるはずの夫からも“お前の育て方が悪かった”と暗に責められることもあります」

夫婦であれば、離婚という選択肢がある。が、親子の縁はそう簡単には切れない。

「記者会見でベテラン女優の彼女は、“それでも私はあなたのお母さんだから”と発言しましたが、これにも参加者の母親たちは深くうなずいていました。中には“息子と縁を切る”と宣言する母親もいますが、口ではそう言ってもやはり大切に育ててきたわが子です。そう簡単に親子の縁は切れません。その一方で、同じ女性として被害者に残酷なことをした息子への怒りや、被害女性への罪悪感も抱えていて、そうした感情と、息子へのなお消えない愛情との間で板挟みになるのが母親たちです」

母親の会における大きな課題は、この“子育て自己責任論”から解放されることにある。息子の犯罪を知る人の前では、子どもの状況ついてはおろか、家族についてもいっさい話せなくなる。それが、同じ境遇にある人たちとは気持ちが分かち合える。自分なりに必死で子育てしてきたことを振り返り、それを言葉にし、仲間に認めてもらう。この作業を繰り返すことで徐々に、息子の事件と自身の子育てを区別して考えられるようになる。

「変化」に時間を要する父親たち

「グループに通ううちに、目に見えて変わっていく母親が多いですね。当初は絶望して暗闇の中で涙を流していた人も、感情や表情を取り戻していきます。そうなって初めて、加害者家族として息子が再犯しないよう支援するスタンスを持てるようになります。一方で、感情を表すのが苦手で何を考えているのかがわかりにくく、変化に時間を要するのが、父親たちです」

今でこそイクメンがもてはやされているが、現在、痴漢などの性犯罪で逮捕された息子を持つ父親らは、大概が子育てを母親に一任してきた世代だ。だから息子が何を考え、どう育ってきたのかをほとんど知らない。

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