映画「この世界の片隅に」製作プロセスの秘密

クラウドファンディングの「実態」

「すでにシナリオも絵コンテも完成していましたし、ものすごく丁寧に作っている。『マイマイ新子』とシンクロして、すごいモノができると思いました。当時の営業トークとしては、とにかく中身がよいことをアピールしたけれど、どうセールスしていったらいいのかが難しかった。配給会社に打診しても、反応が重いんです。監督の前作はコケていて知名度もないし、上映時間2時間半で制作費4億円となると、そうとう大きなマーケットでやらないといけない。その責任は配給会社にあるという考え方を、彼らはするんですね」(真木氏)

片渕監督の前作『マイマイ新子と千年の魔法』は、2009年11月21日から松竹配給で全国38スクリーンにて公開されるも、興行収入は2873万8500円と惨憺たる結果。作品評価こそ高かったものの、商品としては失敗。ファーストラン終了後、一部のミニシアターや名画座でセカンドランが行われたり、上映会が開催されたりしたが、現在までの累計興収は4805万4600円にすぎない。配給会社が二の足を踏むのも無理はない。そこで真木は戦略を変更し、映像配信という先鋭的なメディアに対してアプローチを開始する。

「2014年。配信の時代に入ったことから、連続配信ドラマにしようとしました。10分×数話で、最後の部分を劇場で上映する。2015年が終戦70周年ですので、8月15日には終戦のシーンを配信することを狙ってソフトバンク、AU、ドコモにプレゼンをしたのですが、彼らは製作費を出さない。配信の権利を優先的に買えればいいという考え。それだとアウトプットはあっても、事業の主体にはなりえない。このあたりから焦り始めました」(真木氏)

映像配信という可能性も閉ざされたものの、真木は資金調達の手段として、もうひとつ考えていた策があった。

「それと前後して、クラウドファンディングの研究をしていたんです。僕の後輩の女性が『ハーブ&ドロシー』という作品をクラウドファンディングで資金調達をしていて、その話を彼女から聞きました。それからクラウドファンディングの研究をしている清田さんとディスカッションをした結果、この手法を導入することに決めました」(真木氏)

そしてこの試みは、思わぬ成果をもたらすことになる。

クラウドファンディングの目的はパブリシティ

時折『この世界の片隅に』を指して、「クラウドファンディングで制作費を調達した作品」と書かれた記事を目にするが、これは間違いで、真木がクラウドファンディングで資金を集めたのは、パイロット・フィルムを作成するためである。『この世界の片隅に』のクラウドファンディングでは、当初の目標金額2000万円を超えて3921万1920円を記録するが、それでも片渕監督と丸山が想定した制作費4億円にはほど遠い額である。真木にとってクラウドファンディングをどう位置づけるかは、はっきりしていた。

「クラウドファンディングを導入するにあたり、資金調達かパブリシティか、どちらが重要か?ということになり、僕はパブリシティのほうが重要だと答えました。その段階で製作委員会を組もうとしたのですが、製作委員会の組成には時間がかかるので、当社がクラウド導入以前に出資しました。同時に製作費を40%カットして2.5億円に。上映時間も110〜120分を目標にしました。当然、片渕監督は“出来上がったコンテをすべて映像にすることで完結するわけだから”と抵抗しましたが、“カットしても中身は伝わる。あなたならできる”と説得しました」(真木氏)

次ページ真木氏が想定した戦略とは?
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