映画「この世界の片隅に」製作プロセスの秘密 クラウドファンディングの「実態」

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全国公開作品であれば、当然、全国規模の広告・スポット展開が行われるところだが、「この世界の片隅に」の場合はTVスポットを打つ宣伝費の余裕がなく、また地上波テレビ局でのパブリシティ展開もNHKを除いて、現在のところ実現していない。

通常の映画興行とは逆の現象

にもかかわらず、新聞、ラジオといったメディアがシニア層、ウェブでの盛り上がりが若い観客にリーチし、公開以来、週を追うごとに上映館の数も入場者数も興収も上昇する現象を見せている。これは通常の映画興行とは逆のパターンで、このペースが続けばロングラン興行は必至。とりわけ都内の1〜2スクリーン規模の上映館では、立ち見を入れても観客がさばききれない事態が続いている。この盛り上がりが地方にまで波及すれば、全国レベルのヒット作になることは確実だ。

アニメ企画プロデュース会社GENCOの社長であり、同作品のプロデューサーを務めた真木太郎氏

また『この世界の片隅に』は海外配給も英国、フランス、ドイツ、メキシコ、米国をはじめ世界15カ国で決定しているが、公開時にそれぞれの国を片渕監督が訪問し、現地の人々と交流することを実現すべく、再度、クラウドファンディングで海外渡航・宿泊費用を公募したところ、わずか2日間で目標額である1080万円を達成してしまった。

「この映画を作りたい!」と願うクリエーター、そして「この映画を見たい!!」と応じたファン。両者の幸福な出会いを成功の域に高めるべくプロデュースしたのは、この映画の実現を望み、クラウドファンディングで支援を行い、映画館で感動の涙を流し、それをさまざまな手段で周囲に伝えた観客たちに違いない。

斉藤 守彦 映画ジャーナリスト

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さいとう もりひこ / Morihiko Saitoh

1961年生まれ。静岡県浜松市出身。映画業界紙「東京通信」記者(後に編集長)を経て、1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストに。以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「宇宙船」「INVITATION」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」などの雑誌・ウェブに寄稿。 また『日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-』『宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-』『映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?』『「踊る大捜査線」は、日本映画の何を変えたのか』(共著)『映画宣伝ミラクルワールド』『80年代映画館物語』『映画を知るための教科書 1912−1979』などの著書あり。 映画製作・配給・興行に特化し、およそ30年間、現場を中心に取材・執筆を続けている。現在はシネマズby松竹で「役に立たない映画の話」と題したコラムを連載中。
http://mo-saito.wixsite.com/books

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