映画「この世界の片隅に」製作プロセスの秘密

クラウドファンディングの「実態」

「5分間のパイロットフィルムは支援者に見せたほか、出資をお願いしている企業にも見せました。制作会社が言い出しっぺで製作委員会を組成するとき、普通は紙の企画書しか見せるモノがないんです。その数枚の紙切れで出資してくれというのも無理な話ですね。パイロットフィルムはとてもインパクトがあり、僕も号泣したほどです。つまり営業用のツールを、クラウドファンディングで集めた資金で作ったというわけです」(真木氏)

ネットの声は宣伝ではなく「応援」

幹事会社である真木のGENCO、製作出資・配給・主幹興行を行うことを表明した東京テアトルに続いて、またパイロットフィルムの出来のよさもあり、出資企業が徐々に集まり始める。東京テアトルが昨年配給した『百日紅』に出資した縁から朝日新聞社が、続いてTBSラジオが応じ、さらにバンダイビジュアルが委員会に加わった。新聞社とラジオ。現在においてはオールドメディアに当たるものの、高齢世代にとっては貴重な情報源であり、その影響力も大きい。そうした委員会メンバーによるサポートに加えて、作品が完成し、試写会を開始したところ、熱烈な賛辞や感動の声がウェブ上に多数見られるようになる。

「ネット上、特にSNSでこの映画が絶賛されていることについては、クラウドファンディングからスタートした市民運動ととらえています。これも世の中の“常識”に対するベクトルだと思います(笑)。SNSで上がっている声は、宣伝ではなく応援。応援団っているんだなあ。多くのお客様にご覧いただいています。いずれも好評をいただいています。大変ありがたいことです」(真木氏)

時折、配給会社の人間から「ウェブ上、特にSNSを宣伝に活用する」との声を聞くが、実際にそれをコントロールするのは不可能であり、時には配給元の意向を裏切る言説が拡散されることさえある。そのあたりの現実を、真木は「宣伝ではなく応援」と、冷静に受け止め、割り切っている。

さて問題は、今後の興行展開だ。

11月12日の公開スタート以来、『この世界の片隅に』は、小規模マーケットながら良好な成績を上げており、2週目に入ってもその勢いは衰えるどころか、週末興収が前週対比124%(ただし上映館は5館増)と、成績を伸ばしている。だがローカルでの成績は、都心部ほど伸びてはおらず、楽観を許さない。

「ローカルの成績が今ひとつですが、地方にクチコミが届くまでには時間差があります。それが効いてくるのは3週目以降かな。現在の客層は、男性が65%、年齢的には30〜40代がメインです。できれば若い人、特に女子高生に見てほしいですね。すずさんは18歳でお嫁に行きました。そういったアプローチはするつもりです。親子連れ、夫婦は少ないです。ファミリーにこそ見てほしいですね。ただこの映画は見た後、自分から語りたくなる。応援したくなる。観客が見て、心の中で映画が完成する。だから自分の言葉で伝えられる」(真木氏)

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カーリング人気萌芽の時代から、平昌五輪での銅メダル獲得まで戦い抜いてきた著者。リーダーとして代表チームを率いつつ、人生の一部としてカーリングを楽しめるにまで至った軌跡や、ママさんカーラーとして子育てで得た学びなどを語る。