「ハイブリッド型」腕時計が急成長できる理由 フォッシルは試金石となれるか

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もっとも残念な点は、Misfitのウエアラブル技術を活用していながら、同テクノロジーを用いた他のウエアラブルデバイスから収集されるデータを集約して見られないことだ。

たとえばMisfit RAYという腕時計と一緒に装着するタイプのウエアラブルデバイスがあるが、RAYが収集する睡眠情報をSKAGENの腕時計から集めた情報と統合して見られないのだ。腕時計を装着したまま睡眠を取る人はおそらく少数派だろう。睡眠追跡機能が実際に使われることは少ないと思われるが、それを補完するために別のより適したデバイスを用いるという視点が不足している。

また、ある日はハイブリッド型スマートウォッチを装着するが、別の日は機械式時計、あるいは複数デザインのハイブリッド型スマートウォッチを使い分けたいといった場合、それぞれの時計ブランドごとに歩数情報が分断されてしまう。

情報は個人に紐付くID(たとえばFacebookアカウントなど)ごとに、クラウド側でデータ統合を行うことでひとつにまとめることはできるだろう。メーカーによると、技術的には可能だが、現時点ではデータを統合するよりも、ブランドごとの独立性とプライバシーを重視することが重要との観点から、あえて分離しているという。

なお、睡眠追跡機能(自動的に睡眠に入ったことを検知してきれるため、モード切替は必要ない)を試すため、何度かはめたまま寝てみたが、自動切り替えは正確で計測漏れはなかった。また、Misfit製の他ウエアラブルデバイスと比べ、バイブレーションが強いこともあり、睡眠状況に応じた目覚まし機能(睡眠の浅いタイミングを見計らってバイブレーションで起こす)が、より有効に働くという別の利点もあった。

Apple Watchと勝負する製品ではない

ハイブリッド型スマートウォッチは、真っ向からApple WatchやAndroid Wearと勝負する製品ではない。むしろ既存の腕時計と競合する製品だ。フォッシル製としては第1世代のモジュールとなるが、現時点での完成度は充分に高いと思う。ひとつのモジュールから多くのデザインバリエーションが生まれている点なども評価できよう。

フォッシルCTOでウエアラブルデバイス部門責任者を務めるサニー・ヴー氏。買収前のMisfit CEOだった

今後も改良が加えられていくだろうことを考えれば、このジャンルは(とりわけ台数、本数という観点から)ディスプレー型スマートウォッチよりも素早く市場が立ち上がる可能性がある。

ここで注目されるのが、日本製のクォーツウォッチメーカーかもしれない。フォッシルはアフォーダブル(手頃)なファッションウォッチを生産する世界最大級のメーカーとして、市場環境の変化から縮小が見込まれる出荷台数に対応するため、ウエアラブルデバイスのメーカーを買収し、時計とのハイブリッド化に挑戦。今後、さらに世代を重ねるごとに改良を進めるに違いない。

機械式時計など高級ブランドとしての立ち位置を持つメーカーは別としても、フォッシルと同様の立ち位置にあるクォーツ時計メーカー……たとえばシチズンなどは、どのようにして業界の動きに対応していくのだろうか。

ひとつのスマートウォッチ共通モジュールから多様なファッションウォッチを作るという、時計メーカーならではのビジネスの“形”をフォッシルが作り上げようとしている今、ディスプレイ型スマートウォッチに対して保守的な姿勢を保つメーカーも、動き始めざるを得なくなるだろう。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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