工場勤務17歳女性が「風俗嬢」を希望する理由 離婚した親と別居して生きる彼女の選択

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「今朝は何を食べたの?」という問いに対し、「今朝というか、最近は毎日カレー。1週間まとめて作って、お腹が空いたときにチビチビ食べる。今日でカレー3日目」と彼女は答えた。ほかにも雑炊、鍋もの、煮込みうどんなどを大量に作り置きして、なくなるまで毎日少しずつ食べ続けることで生活しているのだ。

最低賃金で働いて生活しながら、高校で勉強することは大変である。さらに最近は十分な食事もとれていないので、体調不良が続き、仕事も満足にできていない。

だから生活保護申請をするために、わたしも福祉課へ同行することとなった。今は生活費で足りない部分だけを生活保護費で支給してもらう手続きを開始している。当然ながら、彼女は自分が生活保護制度の保護要件を満たし、支援が受けられることは知らなかった。

「まずは、キャバクラくらいから試してみたい」

『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(上の書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

彼女と接していてわたしが最も衝撃を受けたのは、次のような言葉だった。

「早く18歳になりたい。風俗店で働けるようになるから、おカネに困ることもなくなるでしょ? 風俗店でおカネを稼いだら、専門学校にも行けるかもしれないし」

希望は風俗店で働くこと――。

現在、『女子大生風俗嬢―若者貧困大国・日本のリアル』(中村淳彦、朝日新書)が反響を呼んでいる。そこでも触れられているように、生活に困窮している現代の若い女性たちは驚くほど、性風俗店との距離が近い。

当然のように、性風俗産業従事者には、一般労働市場よりも多くの賃金が支払われる。女子高校生の林さんもすでにその構図を漠然とつかみ、性風俗産業が生活上のセーフティネットの一部として認識されているのである。

「とりあえず、まずは来年、キャバクラくらいから試してみたい。友達の紹介で、やってみてもいいかなって思っている」と林さんはうれしそうに語る。

児童福祉法が十分に機能していないばかりか、未成年が自分の希望をかなえるため、自分の性を売らなければならないと積極的に考える現実に、日本社会はどのように対処していくのか。未成年の相談者から突きつけられるわたしたちへの課題は極めて重い。

藤田 孝典 NPO法人ほっとプラス代表理事

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ふじた たかのり / Fujita Takanori

1982年生まれ。埼玉県在住の社会福祉士。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学客員准教授(公的扶助論、相談援助技術論など)。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(2013年度)。著書に、『ひとりも殺させない』(堀之内出版)、『下流老人――一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)、『貧困世代――社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社)などがある。
 

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