目下進む、箱根駅伝「最後の駆け引き」の裏側 本番まで約6週間、監督・選手たちの正念場

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指揮官たちは選手のコンディション、区間の適性、個々の性格。それから他校の誰がどの区間を走るかというオーダーを予想しながら、「区間配置」を決めていく。監督同士が自らの大学の戦略を明かすことは少ないが、試走情報などは飛び交っており、他校のオーダーのうわさを共有することはある。また、監督にはオーダーのクセというか、好みがあるので、それを読むこともある。他校のキーマンとなる選手の区間をある程度予想しながら、最終的なオーダーを組んでいくのだ。

大会4日前の12月29日には「区間エントリー」が行われ、実際に1~10区までに選手名を入れて発表する。当日変更で補欠登録の選手4名を入れることができるが、2区と9区の選手をチェンジするなど区間エントリーした選手の区間配置を入れ替えることはできない。

応援に来る両親や親戚などが困らないようにという配慮で、当日変更を基本的にはしない大学もあるが、ほとんどの大学はあえて主力選手を補欠に登録している。その主な狙いは2つ。ひとつはチームの「リスクマネジメント」のため、もうひとつはライバル校たちに当日ギリギリまで作戦を知らせないためだ。

リスクマネジメントの観点でいうと、本命の10人全員をエントリーすると、風邪や故障など当日変更を余儀なくされた場合に困ることがある。実力的に10番目の選手と11番目の選手を入れ替えるだけなら全体としての戦力ダウンはそれほどないことが多いが、2区など主要区間の選手にアクシデントがあった場合は、その区間にあてられる選手が補欠に残っていないと、大きなダメージとなってしまう。そのために、最低ひとりはエース区間を任せられる選手を残しておく。戦略という意味では、最後まで他の大学にキーマンの区間を隠しておくこともできるのだ。

選手の立場でいうと、区間登録されている場合でも、順当なら自分が当日変更で外されることを理解している選手もいる。反対に選手の集中力を切らさないためにも、外す予定の選手にも、レース当日の朝まで外すことを明かさずに、ギリギリまで準備をさせる監督もいる。自分が箱根を走るのか。レース当日の朝をドキドキしながら迎える選手もいる。

来年正月の箱根駅伝から戦いが変わる

本コラムの筆者、酒井政人の著書『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』が11月10日に発売されました。(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

近年は「山の神」と呼ばれるような強烈なクライマーの出現で、箱根駅伝は完全に“5区勝負”のレースが続いている。しかし、来年2017年の第93回大会から4区が18.5kmから20.9kmに、5区が23.2kmから20.8kmに、それぞれ2.4km延長・短縮する。

5区が最長区間だった第82~93回大会まで全11回のレースで、5区で区間賞を獲得したチームが10回も往路を制して、そのうち7校が総合優勝まで突っ走った。これまでは5区の比重があまりにも巨大だったが、4区と5区の距離が変更することで、10区間のパワーバランスが変わり、レースそのものが大きく変わる可能性を秘めている。

指揮官たちは新たなる戦略を考えながら、区間配置を決めることになる。箱根駅伝まで、あと約6週間。監督、選手たちの内なる“戦い”はラストスパートに突入している。

酒井 政人 スポーツライター

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さかい まさと / Masato Sakai

東農大1年時に箱根駅伝10区出場。現在はスポーツライターとして陸上競技・ランニングを中心に執筆中。有限責任事業組合ゴールデンシューズの代表、ランニングクラブ〈Love Run Girls〉のGMも務めている。著書に『箱根駅伝 襷をつなぐドラマ』 (oneテーマ21) がある。

 

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