仮面をかぶった近隣窮乏化政策:需要を奪う通貨安
まず、アメリカにおいて近年行われてきた強力な金融緩和です。これに対しては、大きく3つの批判がなされてきました。
1:「将来のインフレや新たなバブルの温床になる」
2:「量的緩和は中央銀行による財政政策にほかならない」
そして3つ目は、アメリカ以外の国から湧き起こった
3:「金融緩和を通じて、アメリカが自国経済に有利なドル安を誘導しようとしている」
という批判です。
まずこの3つ目ですが、アメリカの金融緩和はほかの国々にどのような悪影響をもたらすというのか。そのメカニズムをお話ししましょう。
金融緩和を行うと、アメリカ国内の金利は低く抑えられますので、少しでも高い収益を上げようと巨額のドル資金が海外に流れ出るようになります。
ドル資金が流入する国では、ドルからその国の通貨に交換する動きが強まり、ドルに対する通貨価値が上昇します。ブラジルならレアル高、ドイツ(ユーロ圏)ならユーロ高となるわけです。
通貨高になれば、その国・地域の輸出競争力が損なわれるほか、国内産業は割安になった輸入品との競争にさらされてしまいます。
通貨安政策を採った国は競争力が上がる
一方、アメリカではこれと正反対のことが起きます。金融緩和によるドル安でアメリカの輸出競争力が高まり、国内産業も輸入品に対する競争力を高めることができるのです。
このように通貨安政策は「ほかの国から需要を奪う政策」という意味で、古くから近隣窮乏化政策と呼ばれています。
ある国が通貨安政策を採り始めると、需要を奪われないためにほかの国々が対抗策を採り始めます。「パイの奪い合い」はいずれ歯止めのない保護主義へと発展し、そうなってしまえば、これまで私たちが享受してきたグローバル経済の恩恵は失われます。
保護主義によって守られるのは国のメンツだけであり、そこで暮らす国民の生活は保護されるどころか、生活水準が悪化してしまうでしょう。
一国の金融緩和がほかの国にもたらしうる問題は、これで終わりではありません。海外から流入してきた巨額の資金が株式や不動産などに回る結果、景気が過熱し、1つ目の批判のとおり、インフレが高まったり、資産バブルが起きたりしてしまいます。