自国を安売りする近隣窮乏化⇔無理な背伸び 「通貨安」と「通貨高」、極端と極端を考える

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「奇跡」の東アジア、その後に起こったこと

このとき、経常収支は黒字もしくは小幅な赤字にとどまり、財政赤字もほとんど存在しませんでした。

しかしそれは、身の丈に合わない通貨高政策によって、海外から大量の資金を借りることで成立していたのです。

具体的には、当局がアメリカのドルに対して固定的な為替レートを維持する政策(ドル・ペッグといいます)を採り、その下で国内の銀行や企業などが金利の低いドル建てで借り入れを行い、それを現地通貨に交換して融資や投資を行っていました。

しかし、借り入れが増えすぎたり、輸出が伸び悩んだりするなど弊害がみられるようになりました。

こうした通貨高政策の限界に目をつけたヘッジファンドが通貨売りを仕掛け、通貨危機へと発展したのです。

当局が通貨防衛に失敗し、対ドルレートが維持できず通貨価値が大幅に下落すると、銀行や企業がそれまでドル建てで借り入れていた負債の返済に耐えられなくなりました。

ドル建ての返済額が変わらなくても、現地通貨建ての返済額は対ドルレートの下落分だけ増えてしまうためです。その結果、アジア通貨危機は、東アジアの国々に不良債権の増大という金融危機をももたらしました。

通貨安にせよ通貨高にせよ、身の丈、実体に見合わない金融政策は長く続かないということなのです。

 

今回は、両極端の政策「通貨安」と「通貨高」を中心に、アメリカや日本の経済を考えました。アメリカの金融、通貨のさらに詳しいお話は、『やっぱりアメリカ経済を学びなさい』 第3章に以下の通り。

FRBが狙うアメリカの金融政策
 (なぜ通貨で買い物ができるのか?インフレとデフレ、FRBの保有資産「融資」と「債券」、「最後の貸し手としての責務」、「デュアルマンデート」 等)
金融緩和して良かったこと・悪かったこと
 (水辺に連れて行った馬は水を飲んだのか?インフレと新たなバブル、市場の機能不全、中央銀行と政府の関係 等)
グローバル・インバランス
 (アメリカの通貨政策のせいで……、バーナンキも黙っちゃいない 等)
国際通貨制度はこれからどうなる?
 ☆デフレ時代の愛され通貨:金
 ☆市場なき「箱入り」通貨:SDR
 ☆偉大な理想が一転危機を招く、国家なき通貨:ユーロ
 ☆国際化は実現するのか?自由なき通貨:人民元
 ☆見当たらないので駆逐すらできない:良貨
等々を取り扱っています。さらに深く学びたい方はぜひご参照ください。
 

 

小野 亮 みずほリサーチ&テクノロジーズ プリンシパル

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おの まこと / Makoto Ono

1990年東京大学工学部卒、富士総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社。1998年10月から2003年2月までニューヨーク事務所駐在。帰国後、経済調査部。2008年4月から市場調査部で米国経済・金融政策を担当後、欧米経済・金融総括。2021年4月より調査部プリンシパル。FRB(米国連邦準備制度理事会)ウォッチャーとして知られる。

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安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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