気まぐれな資金、他国に出し抜かれる不安
さらに、こうした資金は「気まぐれ」なので、何かをきっかけに急に逃げていきます。そうすると今度は資産価格が急落し、景気が急激に冷え込んでしまうことになるのです。
2010年のG20ソウル・サミットでは、「通貨の競争的切り下げを回避する」ことや「あらゆる形態の保護主義に対抗すること」などが公式文書に盛り込まれ、緊張の回避に向けた努力が行われました。
しかし、各国が通貨安政策を採る懸念は消えていません。それどころか、むしろ通貨安政策の魅力は増しているようです。
2012年12月、ニューヨークで講演を行ったイングランド銀行(イギリスの中央銀行、BOE)のマービン・キング総裁は、「2013年には、積極的に為替相場を管理しようとする国が増えるのではないか」と言いました。「積極的な為替相場の管理」とは通貨安政策を指しています。
円を見てみると、安倍政権下の金融政策によって、しばしばゆ揺り戻しなどありつつも、政権交代前に比べてみたら驚くほどに、円安が進んできています。
昨年12月には、安倍首相による、次のような発言もありました。
「世界の中央銀行が自国の紙幣をたくさん刷り、経済を支え、輸出競争力を高めている。アメリカが典型だ。」「このままではどうしても円が強くなる。それに対抗していくことが重要だ。」(2012年12月23日。ウォールストリートジャーナル日本語版より引用)
これは、過度な円高を是正するという文脈での発言と考えられましたが、キング総裁の懸念が杞憂ではないことを暗示しています。
日本の金融政策が他国から警戒されたのも、近隣窮乏化が自国に降りかかることを懸念すれば、当然のことでした。
身の丈に合わない「通貨高政策」も危ない
ただし、経済実態に見合わない通貨高政策を採るのも危ない。これが、通貨危機を招いてしまうからです。1997年7月にタイから始まったアジア通貨危機がよい例です。
アジア通貨危機はタイを起点にインドネシア、マレーシア、フィリピン、韓国などに伝播し、これらの国々の通貨価値は年末までに50~150%と大幅に下落したといわれています。
通貨危機が起きるまでの東アジア諸国は、「東アジアの奇跡」として高く評価されるほど、高成長と安定したインフレを達成していました。