実は、性同一性障害者に関する先行研究でも、同様の指摘があります。岡山大学の中塚幹也氏らによる「性同一性障害当事者の就労の現状と課題」によれば、職場でカミングアウトした性同一性障害の当事者のうち、人間関係が「よくなった」と回答したのが22.5%、「悪くなった」5.0%、「どちらもある」35.0%、「変化なし」37.5%でした。
カミングアウトして自らの状況を説明し、それが受け入れられた場合、周囲との信頼感が増し、コミュニケーションが増え、人間関係がよりよくなる。そうした状況は私自身も経験があり、実感として理解できます。しかし、逆に、周囲の人がカミングアウトを受け入れられなかった場合、うわさ話やイジメの対象になり、周囲と壁を作ってしまったり、争いが起きたりして、人間関係が悪化する。こちらも友人たちの経験として、聞いています。これは、当人の問題であると同時に、周囲の人の問題でもあると思います。
最後に、職場のLGBT施策への期待についても調査しました。全体の77.1%が「なんらかの施策が必要」と回答し、ニーズが高いのは「同性パートナーへの福利厚生の適用」(67.1%)、「差別禁止の明文化」(44.8%)でした。カミングアウトしている人ほど、LGBT施策を求める傾向が認められました。
「差別禁止の明文化」は、まずは、職場の差別禁止規定の中に、性的指向や性自認という文言を足すだけですので、LGBT施策に新たな予算をつけるのが難しいという企業は、ここから取り組みを始めるのがいいのではないかと思います。
今後の課題は
以上、2回にわたって、アンケート調査の結果をご紹介しました。これまで、職場におけるLGBTの状況については海外のデータしかありませんでしたので、今回の調査は、初めて日本のLGBTの職場環境を明らかにしたものとして、非常に意義深いものだと自負しています。この場をお借りして、調査にご協力いただいた皆さまに、心から感謝したいと思います。
アンケートの感想欄には、「この調査を、日本の会社を変えるために生かしてほしい」という当事者の願いが書かれていました。この貴重な声、自分の職場ではカミングアウトすることが難しいかもしれない「声なき声」を基に、日本でLGBT施策に取り組む企業を増やし、「LGBTが働きやすい職場づくり」を進めることが、今後の課題です。