一時期は閉鎖の声も
――竹島水族館は以前から「サービス志向」だったのでしょうか。
いえ。いかにもありがちな「飼育志向」の水族館でした。お客さんは平日だとほとんどいない。年間でも15万人を割っていました。市役所や議員さんからも「人気もないしカネ食い虫だから閉館してしまえ」という声があったようです。
僕もやさぐれていましたね。名古屋港水族館などに勝てることがひとつも見つからなかったからです。シャチのような目玉になる生物もいない、大きな水槽がない、予算も人員も少ない、知名度も低い。「こんな水族館は潰れてしまえばいい。そうすればほかに行ける」とまで思っていました。
でも、地元の水族館だからやっぱりよくしたい。「なにくそ!」という劣等感がパワーになった気がします。
4年ほど前に僕が主任になってからは、みんなの意識を「魚からお客さんへ」と変えてもらうようにしました。幸い、5人の飼育員全員が賛同してくれています。
――具体的にはみんなにどう伝えているのですか。
「魚ばかり見ていないで、時間が許すかぎり館内に出てお客さんと話そう」と言っています。僕たち飼育員はお客さんと魚たちの橋渡し役だと思うからです。
うちは人数が少ないので、それぞれが責任を持って分担して仕事をしています。企画展も各自がやりたいことを提案して実施する。うまくいけば自分の成功になるし、失敗すると自分の責任です。そのほうがやりがいもあるでしょう。
ほかの水族館にも負けない点は、みんながお客さん視点で考えていて、飼育員とお客さんと魚の各距離が近いこと。垣根がほとんどありません。隣のおばさんの家に遊びに行く感覚で水族館に来るお客さんが多いですよ。僕たちは飼育員というより「魚を飼っているそこらへんの人」だと思われています。「あのアジ、最近太ったね」とか「モンガラカワハギがおらんくなった。あの魚が好きだったのに」なんて気軽に話してかけてもらえます。「メダカを増やすことなら、あんたたちより私のほうが上手だよ」と言われることも。僕たちもできるだけお客さんの顔と名前を覚えるようにしています。
――そんなに身近な水族館は、確かに見たことがありません。失礼ですけど、市立水族館なので、どんなに来場者を増やしても給料が上がったりはしないですよね。
そのとおりです。でも、お客さんが入らないことには水族館は成り立ちません。僕たちが大好きな魚の魅力がたくさんのお客さんに伝われば、おカネではない給料が入ると思っていますしね。
以前はお客さんの人数を気にしていませんでしたが、ここ数年は飼育員全員が気にするようになってきました。年間17万人を割ってしまったら男性飼育員の全員が坊主になると宣言しています。もちろん、僕が強制しているのではありませんよ。「坊主姿が見たいから行かない」と笑うお客さんがいたり、「かわいそうだから」と毎日のように来てくれる優しいお客さんもいます。おかげさまで最近は20万人を超えるようになりました。
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