白熱教室:灘高の英語授業はこうなっている 日本の英語教育を変えるキーパーソン  木村達哉(上)

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単語はクイックレスポンスで

それから、単語に関してはクイックレスポンスを徹底させます。これは通訳養成学校でいちばん最初に言われたことでした。「何よりも単語が大事ですよ。それもクイックで言えるようにしよう。日本語から英語、英語から日本語のどちらの場合もです」とね。

体験入学のときに、覚えてこいと言われた、A4の紙にびっしり詰まった単語は、僕なりに一生懸命覚えたつもりでした。授業で単語テストやると言われたので、プリントが配られるのを待っていたんです。ところがテストは、すべて口頭によるものでした。

「はい、木村さん、いきますよ〜。『野党』」

「(あ、ありましたね)……」

「はい、だめです」

「じゃあ、次『与党』。……。はいだめ。では、『ブッシュ政権』。……。はいだめ!」

その日はホント泣いて帰りました。これに比べたら、一流校に入れさせるための授業なんてお茶の子さいさいだと思いました。教員には、最初から用意されている全訳という最強の武器がありますしね。

生徒の側に回って、いつ当たるかわからない状況でやってみたら、すぐに口をついて出てこなかった。だから、自分が単語テストを作ったときに、いちばんこだわったのが、このクイックレスポンスでした。

以前、僕はリーディングを中心に教えていました。授業をする=リーディングの授業をするという意味でした。今はリスニングを中心にしてリーディングをついでにしている感じです。

それから英作文もクイックレスポンスでさせています。自分で作った文法の参考書を使ってやっているのですが、たとえば、私が「新庄先生は生徒を母親であるかのように厳しくしかる」といった一文を口頭で読み上げたら、指された生徒は、即座に答えなければなりません。Ms. Shinjo scolds her students as if she were their mother.しゃべり出したら途中で少しつまってもOKにしていますが。もちろんそこまでいくには、頭の中にたくさんのデータベースを作っておく必要があります。

さらに、「いよいよ高校2年生の2学期だから受験モードに入ろうぜ」となったときにやるのは、過去問でも長文読解でもなく、リスニングです。とにかく、50分間全授業をリスニングに充てます。

結果的にどうなったかというと、生徒たちは高校生英語ディベート大会全国大会優勝/世界大会(カナダに勝って)3位、国際物理オリンピック金メダル・銀メダル、国際生物オリンピック銀メダルという成績を収めています。3つ目、4つ目は物理や生物の大会ですが、与えられた課題に対して世界各国から集まった人たちを前に英語で発表しなければならない。英語はあくまでもツールですが、できなければまったく歯が立たないことになります。

高3になって受けたベネッセの4技能を試すテストGTECの模試のスコアもよかったです。リーディングは指導していないですが、1〜7のグレードで学年平均がいちばん高いグレード7でした。リスニングはグレード6。それから、模擬テストの平均点は全国1位でした。

もし模試の結果が悪かったら、「結局、受験勉強やらなあかんねんなー」みたいなモードになるような気がして、実は少し緊張していたのです。基本的には受験勉強をやっているのではなく、「英語」を教えている意識がありましたので、いい成績でホッとしました。

※記事初出時、「Ms. Shinjo scales her students as if she were their mother.」となっておりましたが、正しくはscoldsです。お詫びして訂正いたします。

(構成:山本航)

※  続きは6月27日(木)に掲載します

安河内 哲也 東進ハイスクール・東進ビジネススクール講師

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やすこうち・てつや / Tetsuya Yasukochi

1967年福岡県生まれ。上智大学卒。予備校講師、教育関連機関での講演などで実用英語教育普及に従事。著書に『子どもの英語力がグンと伸びる最強の学習』(扶桑社BOOKS)など。

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