受験マシーンと言われて
あるとき灘高から電話がかかってきて、一緒に仕事をしないかと言われました。そして16年前に灘高に移ったことが転機になりました。
灘高は今年も105人の卒業生が東大に合格しています。英語科にかかわらず先生はみんな中学1年生から高校3年生まで6年間持ち上がりという学校で、クビにならない限りは同じ生徒をずっと教えるのです。ずっと教えるうえに4クラスしかないので、今、教えている66回生の生徒であれば、英語は僕以外には教わらないことになります。
だから、授業がしょぼいと生徒たちは予備校、塾へどんどん行きます。6年間1人の先生にしか教わらないので、不安だと思ったら塾に行くんですよね。今教えている子たちは、英語に関しては塾に行かなくなりました。
僕が灘に移った直後は、前と同じように全訳させていたのですけれども、その子たちはリスニングについて不安を感じていたと思うんです。なにせ、高3のクラス半分が東京大学志望と言いますし、入学してきた時点ではほぼ全員がそうですから。
ということは、リスニングの指導がちゃんと行われていなければ、「この先生あきまへんなぁ」という評価をもらうことになるわけです。灘に勤め始めて最初に教えたのは56回生だったのですが、まあよく失敗したなというくらい失敗しましたね。生徒たちの大半が塾へ行きました。
それでも、センター試験の学年平均は180点でした。その年は平均点が高くて助かった。ラッキーでした。東京大学へも90人ぐらい行きました。でも、全然自慢じゃないです。生徒たちは数学の先生には「ありがとうございました!」とお礼を言いに行っていましたが、僕の前は素通りでしたから。ホントにね。
そこで6年間持ち上がりというのは、つらいんだなぁと実感しました。と同時に、リスニングもちゃんと指導しないと、この子らは値踏みするなとわかりました。
インターネットの掲示板には「あいつはただの受験マシーンだ」と書かれました。寂しかったですね。そんなもんかなと思っていたら、模試で英語で偏差値を80、85も取った子が、文化祭かなにかで学校に来たんです。そして、「先生のおかげで東大に行けたので感謝はしています。でも、大学に入って勉強し直しています」と言うんですよ。
「偏差値80以上あったのだから、やり直し不要でしょ?」と聞いたら、「いや全然使えませんよ」と言われました。東京大学はThe Universe of Englishという本を使って、リスニングができる前提で授業が行われます。でも僕は、生徒にじっくりリスニングの授業をしたことはなかったのです。問題集をやらせて、指導と言えば「ちゃんとやれよぉ〜、お前!」「気合い入れてやらんかぃ〜」というようなファンタスティックな叱咤に終始していました(笑)。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら