「ガチ」の選挙を作るキーワードは選挙管理 選挙不正、ネット選挙……選挙にまつわるルールをどう設定するか

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ネット選挙解禁が野党のコミュニケーション機会を生む

また、有権者への情報提供よりも候補者間の公平さを追求する、選挙運動への規制が、政治的な中立を標榜しつつも政権政党に有利な環境を生み出している面を見落としてはならない。

政権政党が実際に採用される政策を通じて有権者とコミュニケーションを取れる一方、野党にはそのような機会がない。

結果として有権者は野党に漠然としたイメージしか持てず、実績があって安心できる与党を選びがちとなる。

ネット選挙解禁の重要な意義のひとつに、これまで有権者との直接的なコミュニケーションの手段をほとんど持たなかった野党が、新たにその手段を手に入れることがあるといえるだろう。

日本でも独立した強力な選挙管理機関をすぐに設置する、という提案は現実的ではない。しかし、選挙制度改革やネット選挙に見られる選挙運動への規制を政府が行い、それが現職の政治家に有利に働くと見られることは、長期的には選挙の正統性を危険に晒す。

選挙制度や区割り、選挙運動の規制と、広い意味で選挙管理に関するトピックが衆目を集める現在、選挙管理という観点から諸々の制度を整理する好機が訪れているのではないだろうか。

 

【初出:2013.6.1「週刊東洋経済(日本株大作戦)」

 

(担当者通信欄)

(↑当連載担当者が編集。ネット選挙なら、まず、この一冊を!)

AKB総選挙は驚きの結果に終わりましたが、その投票期間中に発覚した、モバイル投票システムの不備による選挙権の重複利用は、まさに「選挙管理」の難しさを明らかにする出来事でした。夏の参院選では、初めて「ネット選挙」(=インターネットを用いた選挙運動)が解禁されることになりますが、これは候補者や政党だけの問題に留まりません。運用をめぐっては、インターネットPR会社、WEBマーケティング企業、大手広告会社の当事者向けソリューション提案など、さまざまな動きがあるようです。そんなふうに変化していく新しい選挙戦環境の下で、選挙の「正統性」はどのように担保されていくのか、「選挙管理」のあり方はどう変わっていくのか、見ていきたいと思います。

さて、砂原庸介先生の「政治は嫌いと言う前に」最新回は2013年6月24日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、安倍政権の正体)に掲載です!

【良くて無用、悪いと有害!? 参議院をどう活かすか】

7月にはいよいよ国政選挙がやってきます。日本では衆議院、参議院の二院制が採られていますが、今回は衆参ダブル選挙の可能性がなくなったので、行われるのはそのうちの第二院、参議院の通常選挙のみです。しかし、そもそも、なぜ日本は二院制をとっているのか? このそれぞれの議院は何を期待され、どのような違いを持つのか?権限の対象性と選出基盤に着目して、一院制や別のタイプの二院制と比較しながら、日本の二院制を考えます!

 

大阪―大都市は国家を超えるか』(中公新書)。 橋下改革の最前線にある大阪市立大学から、地方自治の専門家として国家と対峙する大都市「大阪」の来歴と今後を議論します

 

 

砂原 庸介 政治学者

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すなはら ようすけ / Yosuke Sunahara

1978年7月生まれ。2001年東京大学教養学部卒業、東京大学大学院 総合文化研究科 国際社会科学専攻にて2003年修士課程終了、2006年博士後期課程単位取得退学。2009年同大学院より、博士(学術)。財務省・財務総合政策研究所の研究員、大阪市立大学などを経て、2013年より大阪大学 准教授。専攻は行政学、地方自治。地方政府、政党の専門家として、社会科学の立場から学術研究に注力する。傍ら、在阪の政治学者として、地方分権や大阪の地方政治について、一般への発信にも取り組む。著書に、『大阪―大都市は国家を超えるか(中公新書)』(中央公論新社、2012年)、『地方政府の民主主義―財政資源の制約と地方政府の政策選択』(有斐閣、2011年。2012年日本公共政策学会 日本公共政策学会賞〔奨励賞〕受賞)、共著に『「政治主導」の教訓:政権交代は何をもたらしたのか』(勁草書房、2012年)、『変貌する日本政治―90年代以後「変革の時代」を読みとく』(勁草書房、2009年)など。
⇒【Webサイト】【ブログ sunaharayの日記】【Twitter(@sunaharay)

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