意外なほどもろい、中国の金融システム 習近平体制は本当に銀行改革ができるのか

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二極化する中国の金融システム

それでも、「信託」や「理財商品」が投資家にとって魅力的であることは間違いない。中国の1年定期預金の基準金利は3%である。それに対して、信託商品の利回りは約10%で、かつ元本がほぼ確実に確保されている。「理財商品」もたまに危ないものもなくはないが、それでもほとんど(おそらく99%近い)のものが、5%前後の利回りで「ほぼ安全に」運用されている。

どうして、このような状況が生まれるのだろうか。それは、中国の金融システムが二極化してしまっていることが原因だ。銀行から借り入れができる企業は、基本的に国有企業か民営でも大手企業に限られる。銀行は総量規制で融資できる額が決められているので、安全な大手企業から貸し出していけば、一般企業が借り入れられる余地は極めて限られてしまう。通常の資金ニーズがある法人顧客は、健全な財務状況にあっても、銀行から通常の貸し出しを受けることができず、貸出基準金利(6%)を大幅に上回る金利で調達する「信託」や「理財商品」に組成されて、投資家向けに販売されることになる。

このように中国の金融は大きく分けて、国有企業を中心にした政策金利の世界と、それ以外の実質金利の世界の2つから成り立っているといえる。銀行と国有企業を中心にした金融は、定期預金3%、貸出金利6%の低金利がベースとなる。中国では金利が自由化されていないから、銀行は親方商売で、優先的に国有企業に貸し付けるだけの作業となるわけだ。そこで預金と貸し出しのスプレッドをしっかり享受したうえで、総量規制を超えるため貸し出せない先は、「理財商品」にパッケージし直して個人投資家に販売、手数料収入でぼろ儲けすることができる。

中国の金融機関がいかに特権を享受しているかは、突出した給与水準で鮮明だ。たとえば、北京市が発表した2012年の業種別平均年収で、金融業は18万4612元(290万円)となり、平均年収5万6061元(88万円)の3.18倍となった。第2位の情報サービス・ソフト業の13万154元(204万円)を大きく引き離している。金融から銀行を切り分けると、所得水準の高さは異様なほど鮮明になる。2011年のデータになるが中堅株式制銀行の招商銀行の行員の平均年収は44万元(690万円)と伝えられた。おそらく日本の銀行の平均所得に迫る水準ではあるまいか。

こうした状況にメスを入れようとしているのが、新指導部である習近平体制である。個別政策としては「理財商品」の組成条件の厳格化を進めると同時に、大きな流れとして「金利の自由化」を進めようとしている。いわゆる金融改革の一環である骨子となる部分である。金利を自由化すれば、銀行はかならずしも安い金利で借りようとする国有企業だけに貸し付けるのではなく、より高い貸出金利が得られる民間企業に貸し出す意欲が高まる。そうなれば、リスクのある借入先は「理財商品」にして、オフバランスで投資家に売却する、といった安易な商売がやりにくくなるはずだ。

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