信用収縮に悩む準大手・中規模企業 金融引き締め強化と過剰な“反社”警戒が混乱助長
「メインバンクから突然、融資の借り換えを拒否され、資金計画が大きく狂ってしまった」「業績、財務は堅調でも新規融資を断られた」--。いま、企業と金融機関の現場ではかつてない信用収縮が渦巻いている。業界環境が悪化している「不動産」「ノンバンク」「新興ベンチャー」の3業種に対して、メガバンクを筆頭に銀行は融資の見直しを集中的に進め、極力エクスポージャーを抑える姿勢を強めている。
また、業績悪化や企業側の過剰債務問題に加え、コンプライアンスリスクや反社会的勢力の排除を大義名分とした警察、金融当局の連携強化による金融締め付けも見逃せない。一度「反社」のレッテルを貼られると、業界大手、急成長企業でも瞬く間に資金繰りに窮する、前代未聞の事態を招きつつある。「邦銀は、各行が蓄積してきたブラックリストのデータベースを部分的に共有化している。このため名指しされた企業に対するコンプラリスクは急速に浸透していく」(メガバンク幹部)。
“反社”への過剰反応生んだスルガコーポレーション事件
一連の流れを決定づけたのが、東京・紀尾井町の地上げで広域暴力団系企業が関与したスルガコーポレーション事件だった。“スルガ・ショック”に端を発して株式市場では不動産セクターが軒並み売られ、早くも“第2のスルガ”探しが始まり、金融機関も不動産業向け融資をさらに引き締めている。
確かに、コンプラリスクが取りざたされるデベロッパー、不動産ファンド企業は少なくない。たとえば、「不動産ファンドの資産査定の過程ではマネーロンダリングやアングラ資金の実態が浮かび上がることもある」(外資系証券)、「一部のデベロッパーは、不動産の取得や売却に絡んで、暴力団関係者の影がちらつく」(業界関係者)との声もある。
問題なのは、たとえ融資先企業が“クロ”でなくても、銀行や株式市場が過剰反応し、不動産や金融業者に対していびつな信用収縮を引き起こしていることだ。コンプラリスクを恐れ「不動産業というだけで、融資を断られた」(中堅不動産)といった極端なケースもあり、混乱を増幅させている。
銀行の融資引き締め、そして不動産市場変調のあおりを受けて、風向きが明らかに変わってきたのが首都圏のマンションデベロッパー。すでに神奈川では中堅のグレイス(負債約60億円)、新興デベロッパーのアジャクス(同128億円)、東洋ホーム(同94億円)が立て続けに自己破産に追い込まれ、埼玉でも「つくばエクスプレス」沿線の開発・分譲で急成長を遂げていた第一住創が約82億円の負債を抱えて民事再生法の申請を余儀なくされている。首都圏のデベロッパーでは、地価高騰による仕入れ価格の上昇、それに伴う借入金の急増が著しい。そこへ首都圏のマンション販売が大きく減速。さらに建築コスト上昇、改正建築基準法による工期遅れがダメを押す。
東京都内の中堅・中小業者でもネガティブ情報がくすぶり始めた。年商100億円クラスを中心に、支払いの遅延やリファイナンスの失敗など資金繰りをめぐる信用不安情報が頻発。銀行からの資金調達が困難になり高利の事業者金融へ駆け込むケースもある。積み上がった在庫物件のダンピング販売が、地価の下落をもたらす悪循環も始まっている。
それでは、上場企業への影響はあるのだろうか。まず、前述したスルガコーポレーション(東証2部)は、約380億円の融資残を抱えるメインバンクのみずほ銀行は「含み資産によって担保力を認められ、みずほ銀行が回収を急ぐ可能性は小さい」(取引金融機関)と見られている。とはいえ、シンジケート・ローンの財務制限条項に抵触する可能性もあり、3月期決算を契機として下位行が回収や返済要請に踏み切る懸念はぬぐいきれない。