「昔のソニー」をありがたがる風潮への違和感 古くて大きな会社に求められる役割を問う

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大企業の経営トップは、「OBも含めた会社」という大きなコミュニティの総意に基づいて、トップにいるような状況にあります。だから、その人が祖業に手を突っ込んだり、伝統的な事業から撤退したり、といったことを言い出すと、OB含めて周囲から総攻撃に遭うわけです。「何を考えているのか」と。

祖業や撤退部門に属している社員が、OBに泣きついたりもしてしまう。OBは「今の社長はおかしい」などと言い出し、そこから、週刊誌にたくさん書かれ始めたりする。OBというのは、恐ろしい存在です。

共同体のノスタルジー

ところが、OBには悪意はありません。むしろ正義の気分で行動している。しかし、頭の中は完全に古いままで硬直化してしまっています。昔の思い出の中に生きているのです。そういう人たちが、今のリアリティを理解できているはずがない。必ず「昔は良かった」症候群になる。

ソニーでいえば、ウォークマンがヒットしていた時代で、時間が止まってしまっているのです。今の20分の1ほどの規模のソニーのイメージで話をしていたりする。今はケタ違いに大きくなり、新しい組織に変わっているということが前提になっていない。そしてソニーの記事が人気になったのは、「サラリーマン」のメンタリティを示していると思いました。「昔は良かった」という共同体のノスタルジーです。その象徴としてのソニーの姿を見ている。

しかし、もとより若い世代には、ソニー幻想などありません。今のソニーのメシの種は、BtoBビジネスです。私は今のソニーはまったく正しいと思っています。とても頑張っている。古き良きソニー時代の共同体の中、時間が止まってノスタルジックな発言をしている人たちの言うことなど、聞く必要はありません。今から未来に向かった、本当の意味での未来志向のリアリティはもうなくなっている人たちだから。

日本の経済社会についての議論のバカさ加減は、「ソニーがかつての革新力を失っている」と嘆いたりすることです。あるいは、「ホンダがそういう力を失った」と嘆く。しかし、それはまったくナンセンスです。GEだって、昔はイノベーティブな会社でした。エジソンが作った会社なのですから。マイクロソフトもそうでした。しかし、今はどうでしょうか。

しょせん、会社などというのは、米国であってすら、でかくて古くなったら、イノベーティブではなくなるのです。つねにその時代のイノベーションを起こしてきたのは、新しい若い会社なのです。

これは日本も同じ。明治維新の時から、ずっとそうでした。だから、ソニーやホンダが革新力を失ったことが問題なのではなくて、「どうして第二、第三のソニーやホンダが出てこないのか」ということこそが、問題の本質なのです。

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