三井:今回の2017年版には中原さんがこだわった部分があると、編集者さんから聞いていますが……。
中原:こだわったという言い方が正しいかどうかはわかりませんが、2017年版では読者の方々にとって理解が深まるように、新たに「2つのことがら」を試みています。
新たな試みの1つは、2016年版の予測の検証をしているということです。「IMFやOECDなどの国際機関や○○総合研究所といったシンクタンクの予測はいい加減だから、その有効性を判断するためには予測の検証がしっかりと行わなければならない」という趣旨の文章を『ビジネスで使える 経済予測入門』でも書いたのですが、それは当然ながら個々のエコノミストやアナリストにも当てはまるものであると思っています。
そこで「経済はこう動く」の2017年版からは、米国編、欧州編、中国編、日本編のそれぞれの章の冒頭に、前年版の予測を振り返って検証や反省、教訓などを述べるようにしています。
私は物事の本質や過去の歴史に照らし合わせながら、流動的な経済や市場の流れを予測していくうえで、予測が当たらなかった時は反省点を検証するといった試行錯誤を繰り返していく必要があると思っていますし、経済には必ず連続性がありますので、この試みは読者が流れを理解するためにも役立つと信じています。
2000年以降、世界経済は大転換した
三井:ずいぶんストイックな試みをされているのですね。この世界では言いっ放しが当たり前だと思っていたので、とても斬新な感じがします。
中原:そう言っていただけるとありがたいです。
2つめの試みは、今回の2017年版では2016年版と比べてグラフの数を増やしたということです。たとえば米国の住宅関連指標では、中古住宅販売件数、新築住宅販売件数、住宅着工件数、住宅価格指数など複数の指標がありますが、住宅関連指標をひとつだけ示して分析や予測をするのは公平な見方ではありません。示す指標によっては状況の見え方が大きく変わる場合もあるからです。
ですから、読者の方々にはできるだけ多面的な分析を理解していただけるように、ページが許すかぎりグラフを使用しています。さらには、グラフで示される経済指標はできるかぎり2000年までさかのぼって調べるようにしました。
三井:どうして2000年なのですか?何か深い意味があるのでしょうか?
中原:それには重要な意味があります。私は2000年以降の世界経済、厳密には中国がWTOに加盟した2001年以降の世界経済を、それ以前の世界経済とは分けて考えるようにしています。もちろん、現実の経済は決して断絶することなく連続性を持って動いているので、2000年を起点に明確に区切ることは難しいかもしれませんが、当時13億人近い人口が新たに資本主義社会に組み込まれた意味は非常に大きいと言えるからです。
資本主義社会は教育水準が高いうえ労働力が安い中国を取り込むことによって、全体の規模を拡大させただけでなく、平均の成長率を引き上げることができたのです。しかしその副作用として、先進国の成長率が低下していくというのは、避けられない状況となりました。グローバル経済が全体で成長するには安い労働力が原動力になっている一方で、安い労働力はかつて良質な雇用といわれた先進国の雇用を次々と奪っていったからです。
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