三井:使用するグラフを2000年からにしているのは、そういうわけだったのですね。2008年のリーマン・ショックを分岐点と考える経済評論家もいますが、その点についてはどのようにお考えですか?
中原:たしかに、米国の住宅バブル崩壊や世界的な金融危機の後遺症があるのは事実ですが、その後の景気回復の過程で人々が生活の豊かさを実感できないでいるのは、雇用の質の問題が深刻化するのに加えて、エネルギー資源の高騰によるインフレが人々の可処分所得を減少させているという現実があるわけです。その双方にかかわっているのが、資本主義化した中国にあるのです。経済学の分野ではそのことに着目せずに、インフレを重視する姿勢が常識として変わらないままでいるのは、非常に残念なことですね。
米国経済の好調はいつまで続くのか?
三井:それでは、世界の経済を見る上でもっとも重要な米国の経済についてお伺いします。2017年の米国経済をどのように予測されていますか?
中原:まず現状の分析からすると、2016年のこの時点でも米国経済が1%程度の成長を保つことができているのは、個人消費が経済全体を下支えできているからです。
そして、個人消費の伸び率がGDPの伸び率を大きく上回る水準を保つことができているのは、原油安による低インフレが人々の実質的な所得を引き上げることができているからです。
2014年秋口からの原油安によって、米国の物価上昇率は2015年に0.1%にまで低下し、卸売物価指数にいたってはマイナス0.9%まで落ち込みましたが、その結果として、国民の実質的な所得が増えることで家計の購買力が高まり、個人消費がいっそう拡大する基調に入ってきているのです。
三井:中原さんが昨年の2016年版でも指摘されていたように、それで自動車市場が過去最高を更新するまでに売れていたわけですね。
中原:そのとおりです。しかし、WTI原油価格が2月に26ドル台を付けて以降、これ以上の原油安が望めなくなってきたのに加えて、2016年7月の時点では米国の自動車市場のピークが2015年~2016年だったと考えられる兆候が、典型的な歴史のパターンとしてすでに表れてきています。ですから私は、2017年には自動車市場は縮小に転じるだろうと予想しています。
三井:そうなると、2017年の米国経済はマイナス成長になるということでしょうか?
中原:そう考えるのは早計だと思います。個人消費には自動車市場と住宅市場の2つの柱となる市場があります。自動車市場が縮小に転じても、住宅市場が堅調なうちはマイナス成長には陥らないだろうと考えています。
三井:米国の住宅市場が今も堅調な理由は何でしょうか?
中原:バブル時の勢いはないとしても、住宅の販売がここまで活況を呈しているのは、自動車と同様に、2016年以降にさらに進んだ原油安や低金利によって、米国民の購買力や購買意欲が引き続き高まっているからです。ただし、これまでの住宅販売の回復を主導してきているのは、「金融緩和によってあふれだしている投資マネーである」という点には注意を払うべきです。
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