「自動運転」で手放し運転できる日は来るか カギを握るのは「コンピューターの目」
「手に入るデータとコンピュータの性能がついに過去のアイディアに追いついた」と言うのは、カリフォルニア大学バークレー校のトレバー・ダレル教授だ。
データがガソリンだとしたら、ニューラルネットワークは「ディープラーニング」と呼ばれる機械学習のエンジンだ。これはコンピュータビジョンのみならず、機械翻訳や音声認識といった人工知能(AI)の急速な進歩を支えてきた。
IT企業はディープラーニングをビジネスチャンスととらえ、AI分野の研究開発に多額の資金を投じている。
2021年が節目の年になる
ニューラルネットワークがコンピュータビジョンをどこまで進歩させることができるかは未知数だ。情報の入力を受けた「ノード」(神経細胞にあたるもの)がほかの複数のノードに出力するという意味では、ニューラルネットワークは脳の働きを模倣している。こうしたノードの層が重なり合ったものを「畳み込みニューラルネットワーク」といい、大量のデータで訓練を施した甲斐あって、画像の識別能力はどんどん伸びている。
イメージネットの責任者を務めたことのあるスタンフォード大学のフェイフェイ・リー准教授は、この種のコンピュータビジョンの進歩の立役者の1人だ。それでも現行のアプローチには限界があるとリーは言う。「訓練データに依存しているし、こうしたディープラーニング技術には私たち人間が知識や文脈として身につけているものの多くが欠けている」とリーは言う。
フェイスブックは先頃、この「AIは文脈が理解できない」という問題に遭遇した。ノルウェー人のユーザーがナパーム弾の攻撃から逃げる裸の女児の写真を投稿したところ、ベトナム戦争と人々の苦しみを象徴する有名な写真だったにも関わらず、ソフトウエアが児童ポルノ画像だと判断して削除してしまったのだ。フェイスブックは後に写真を元に戻した。
だが数年にわたって改善を積み重ねていけば、別にAIの技術革新などなくても安全な自動運転車の実現は可能だろうと専門家らは言う。これにはコンピュータビジョン技術の着実な進歩だけでなく、もっと高精細のデジタルマッピング技術や、レーダーやリーダーの改良も含まれる。リーダーはレーザー光を使ったセンサーで、レーザーよりも「視界」が広く、もっと詳細な情報が得られる。
自動運転車の商品化の前には、さまざまな路面状況や天候の下でのとことん試験走行を行う必要があると専門家は指摘する。グーグルは何年も前からやっているし、ウーバーはピッツバーグで試験走行を始めたところだ。
世界の自動車メーカーも自動運転車の開発にあたっており、2021年は業界にとって節目の年となりそうだ。独BMWは先頃、インテルとイスラエルのコンピュータビジョン会社のモービルアイと提携し、同年までに自動運転車の商用化を目指すと発表した。手放し運転はまず都心部で、その数年後にはそれ以外のあらゆる場所で可能になるという。フォードも同様の開発プランを明らかにしている。
「まだ先の話ではあるが、今の改善のペースであれば実現は夢ではない」と語るのは、自動運転車の開発に携わった経験をもつコンピュータビジョンの専門家、ゲーリー・ブラドスキーだ。
「知能に似たものが登場するまで長い年月待つ必要はない。人間が運転するより自動運転車のほうが安全になり、数多くの人命を救うようになるのもだ」
(執筆:Steve Lohr記者、翻訳:村井裕美)
(c) 2016 New York Times News Service
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