金融政策は財政政策のしもべになった
ただし、これによって設備投資が増えることはなかった。長期金利もすでにかなり低い水準に落ちこんでおり、しかも、設備投資は、投資機会の消失によって低迷しているからである。時間軸効果は、国債増発による長期金利高騰を抑える程度のものにすぎなかったのである。
このように、量的緩和策は経済に影響を与えることはできない。図に示す実際のデータを見ても、それが確かめられる。01年から05年にかけて、量的緩和政策によってマネタリーベースは顕著に増えたが、貸出は顕著に減少した。量的緩和措置の停止に伴って06年にマネタリーベースは急減したが、貸出はこの頃から増加した。10~12年は、マネタリーベースの増加に伴って貸出も増加しているが、増加額は前者が28兆円、後者が24兆円で、テコ効果は働いていない。
実体経済に影響を与えようとすれば、財政政策を用いるしかない。しかし、そのためには国債増発が必要で、そうすると金利が上昇してしまう。開放経済では、円高になって輸出が減少する。
そこで、国債を買い支えて、金利高騰を防ぐ。これが、「中央銀行による財政ファイナンス」、あるいは「国債の貨幣化」(マネタイゼーション)と呼ばれるものだ。いわば、金融政策は財政政策のしもべになるわけだ。このように考えると、01年以降の量的緩和策も、10年以降の緩和策も、そして今回の措置も、極めて明瞭に理解することができる(アメリカの量的緩和策QEも、証券化商品MBSの買い支えが目的であると解釈できる)。
財政ファイナンスは、いまに始まったものではない。量的緩和のときからそうだった。ただし、今回は規模が拡大されたほか、直接に長期債も購入することにしたため、その性格が強くなった。これまでは、金利高騰抑制という消極的なものだったが、これからは、より積極的に拡張財政に資金を供給することになる。
こうした理解が正しいとすれば、前回述べたように、安倍内閣はこれから公共事業の大拡張や大規模減税などを内容とする大規模な財政拡大政策を打ち出してくるだろう。
しかし、これは、「行ってはならない」とされている政策なのである。財政膨張が際限もなく続くからだ。しかし、歯止めはすでにはずされてしまっている。もちろん、政府も日銀も、量的緩和措置がこのような目的のものであることは否定している。冒頭で述べた黒田総裁の発言は、「今回の措置は財政ファイナンスの拡大」と批判されることをかわすためのものだったのだろう。
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