東京五輪問題で見えたアベノミクス成功の鍵 財政政策の「中身」が今後ますます重要に

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委任されたエージェント(オリンピック大会組織など)が、本来の依頼者である国民の利益よりも、自らの利益を優先するという経済学のエージェント問題が当てはまる典型的なケースといえる。エージェント問題の是正には、本来の依頼人である納税者の利益を考える主体が枠組みに入り、制度を枠組みに変える必要がある。

こうした経済学の理屈からも、計画の見直しを目指す小池都知事の行動は妥当だし、実際に計画見直しが行われるのだろう。この小池都政の姿勢を、安倍政権がどう支えるかが、今後の政権支持率にも影響を与える注目すべき政治要因になるのではないか。

歳出拡大の過程で問題を露呈した公的部門

今回の東京オリンピックの経費拡大は、公的部門が歳出を拡大させるプロセスで大きな問題が生じることを示している。前回2014年4月の消費増税時に、その景気への影響を吸収するために、補正予算によって公共投資などが上積みされた。しかし、実際には筆者が強く懸念していたように、その後の日本経済の落ち込みと長期化は、多くの経済学者やエコノミストの想定を超えるものだった。

この理由は、そもそも補正予算などの規模が増税規模よりも小さかったので、民間への増税負担が圧倒的に大きく、強烈な緊縮財政政策だったことが大きい。金融緩和の徹底でデフレから完全脱却するまで、緊縮財政政策を採用することはナンセンスということである。さらに、ボトルネックが顕著な建設セクターなどへの公共投資に、財政支出を割り当てる経済効果が、様々な実務的な事情もあり極めて小さくなってしまうことを、オリンピックの経費拡大問題は示していると言える。

ヘリコプターマネー政策の実現性が我々投資家の間では一番のトピックスとなっていることを以前のコラム「ヘリコプターマネーは『禁じ手』とは言えない」(8月15日配信)で紹介したが、今後、安倍政権が財政政策拡大によるヘリコプターマネー政策を採用するとすれば、財政政策の中身をしっかり考える必要がでてくるだろう。そして、公的部門を介した支出拡大の実務上の問題が大きいなら、家計などへの時限的減税や補助金が、有力な財政政策のツールになってくる。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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