そもそも、非正規雇用のデメリットを整理すると、3つのポイントが浮かび上がってきます。
1つ目は、賃金格差です。単純に年収ベースで300万円程度の差があるのみならず、実は賃金体系による差もあります。たとえば、時給制非正規の場合は「実際に働いた時間」で賃金計算されるため、遅刻や早退、病欠による欠勤で控除がなされる例が多く見られます。
一方で、正社員の場合は遅刻早退や欠勤控除がなされない「完全月給制」である例も多く、また、その他の手当・賞与・退職金・福利厚生など含めると実感的な格差は思いのほか大きくなっています。
2つ目は、身分保障の格差です。非正規雇用について、契約期間の定めがある場合は、そもそも雇用保障が弱いことになります。契約社員のみならず、パート・アルバイトでも期間の定めがついている例が多く見られます。派遣社員についても、派遣先の雇用ではないため、契約は簡単に終了されます。一方で、正社員については労働契約法が定める解雇権濫用法理という規制により、強い雇用保障が与えられています。
しかも、裁判所は、いわゆるリストラ(整理解雇)の際に、「整理解雇の4要素」を満たすことを企業に求めます。その中に、「(正社員の)解雇回避努力義務」という要素があり、要は解雇をする前に、さまざまな努力をせよと企業に求めるのですが、そのひとつとして、「正社員を切る前に非正規を先に切れ」という発想になりがちです。つまり、裁判所自らが非正規差別を助長しているともいえる状況なのです。
3つ目は、キャリアの格差です。そもそも非正規雇用の業務は単純労働であることが多く、スキルや専門知識が身に付かない、いわば「労働力の切り売り」であることが多く、キャリア形成ができない点が問題です。今後AI(人工知能)の発達により、機械に取って代わられる仕事が多くなることは明らかで、その意味でも雇用保障は弱いと言えるでしょう。
企業の人件費調整それ自体は「悪」ではない
では、なぜこのような「デメリット」がある非正規雇用を企業は活用し続けるのでしょうか。「ブラック企業だから」という単純な理由だけなのでしょうか。もちろん、「ブラック」な企業が糾弾されるべきことは当然ですし、これらを擁護するつもりもありませんが、ここで考えるべきは、企業の人件費は無限に存在するわけではないということです。極めて当たり前の視点ですが、「賃金原資には限りがある」という大前提を忘れた議論が、あまりにも多く見られます。
そもそも企業が景気変動に応じて、人件費を調整すること自体は世界共通の普遍的事象であり、それ自体が「悪」なら、もはや資本主義とはいえません。問題は、その人件費調整を誰が引き受けるのかということなのです。
現状は、正社員に対する解雇権濫用法理の保護が強すぎるため、非正規労働者がこれを一手に引き受けているといういびつな構造になっています。スキルや能力、経験を考慮するのではなく、「非正規だから」リストラ対象とされ、「正社員だから」その対象とはならないのは、あたかも身分制度のようではないでしょうか。もちろん、正社員を対象とするリストラを行う例はあります。しかし、それは「非正規のリストラ」を行った後か、「どうしても非正規を残す理由」がある場合に限られるのが現状なのです。
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